第39話 「冬休み、届かない言葉」
冬休みが始まった。
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学校へ行かない朝。
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目覚ましをかけなくてもいい日々。
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普通なら嬉しいはずだった。
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だが直人は少しだけ寂しかった。
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毎日会えていた人に、 会えなくなる。
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そんな経験は初めてだった。
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机の上には、 図書室で借りた本が積まれている。
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美月も、 今ごろどこかで読んでいるのだろうか。
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そんなことを考えてしまう。
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本を開く。
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物語は面白い。
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でも。
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ふとした場面で思う。
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「この感想を美月に話したい」
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以前なら、 本は一人で読むものだった。
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感想も自分だけのものだった。
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それが今は違う。
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面白かった場面。
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印象に残った言葉。
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主人公の気持ち。
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誰かと話したいと思う。
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その「誰か」が、 美月だった。
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数日後。
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部屋の掃除をしていると、 母が言う。
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「最近、本読む時間増えたね」
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「うん」
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「高校入ってから変わった?」
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直人は少し考える。
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変わった。
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確かに変わった。
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でも。
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何が変わったのかは、 うまく言葉にできない。
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夜。
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窓の外では雪が舞い始めていた。
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直人は読み終えた本を閉じる。
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そして。
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本の最後のページに挟まれた栞を見る。
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あの日。
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美月が落とした栞を思い出す。
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あれがきっかけだった。
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たった一枚の栞。
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もし拾わなかったら。
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もし声をかけなかったら。
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今も、 名前すら知らないままだったのだろう。
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布団に入る。
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天井を見上げる。
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冬休みはまだ続く。
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学校が始まるまで、 あと二週間。
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長い。
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こんなに学校が待ち遠しい冬休みは、 人生で初めてだった。
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まだこの頃の直人は知らない。
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この冬休みが終わる頃。
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美月との距離がさらに近づく出来事が待っていることを。
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そして。
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その幸せな時間があるからこそ、
後に訪れる別れが、 より深く心に刻まれることを。
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窓の外では雪が静かに降り続けていた。
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直人は本を胸に抱きながら、
新学期が来る日を、 少しだけ楽しみに待っていた。




