第38話 「冬休みの約束」
冬休みまで残り数日。
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学校では、 終業式の話題が増えていた。
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「冬休み何する?」
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「遊びに行こうぜ」
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「バイト入れた」
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教室ではそんな会話が飛び交う。
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直人は聞きながら思う。
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昔なら。
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こういう会話は遠い世界だった。
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誰かと遊ぶ予定。
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誰かと出かける予定。
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自分には関係ないものだと思っていた。
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でも。
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今は少し違った。
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美月と話す時間がある。
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それだけで、 学校が少し近く感じる。
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終業式の日。
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午前中で学校が終わる。
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帰る準備をしていると。
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図書室の前で美月と会った。
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「あ」
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同時に声が出る。
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少し気まずい沈黙。
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でも。
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前とは違う。
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逃げたい沈黙ではなかった。
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「冬休みだね」
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美月が言う。
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「うん」
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直人は答える。
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ここで終わる。
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いつものなら。
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でも今日は違った。
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「何するの?」
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美月が聞く。
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直人は考える。
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正直に言えば、 特に予定はない。
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家で本を読む。
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宿題をする。
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そんなくらい。
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「たぶん家にいる」
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言った後。
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少し恥ずかしくなる。
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つまらないと思われるかもしれない。
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しかし。
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美月は笑わなかった。
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「私も似た感じ」
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意外だった。
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「そうなの?」
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「うん。本読むこと多いかな」
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その言葉に少し安心する。
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同じだった。
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自分だけではなかった。
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「その……」
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直人は言葉を探す。
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心臓が速くなる。
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今までなら、 ここで止まっていた。
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でも。
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「冬休みも本読むなら……」
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声が小さくなる。
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「また感想聞かせて」
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言えた。
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それだけ。
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誘ったわけではない。
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約束でもない。
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ただの言葉。
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でも直人にとっては大きな一歩だった。
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美月は少し笑う。
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「うん」
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「直人くんも」
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名前を呼ばれた。
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その瞬間。
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胸が大きく跳ねる。
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今まで。
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名前を呼ばれることなんて何度もあった。
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でも。
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美月から呼ばれたことが、 特別だった。
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帰り道。
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直人は何度も思い出す。
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「直人くん」
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その一言。
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夜。
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机に向かう。
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冬休みの宿題。
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その横に、 読みかけの本。
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そして。
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新しく借りた本。
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美月が読んでいた本だった。
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同じものを読む。
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それだけ。
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でも。
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同じ時間を共有している気がした。
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まだこの頃の直人は知らない。
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人との距離は、 大きな勇気で一気に縮まるものではなく。
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こうした小さな一歩の積み重ねで変わっていくことを。
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そして。
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自分にも誰かと繋がれる可能性があることを。
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高校一年の冬。
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直人は初めて、
「自分は一人ではないかもしれない」
そう思い始めていた。




