第37話 「少しずつ近づく距離」
次の日。
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直人はいつもより少し早く学校へ来ていた。
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理由は自分でも分かっていた。
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昨日の会話。
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あれだけだった。
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でも。
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もう一度話してみたいと思っていた。
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それだけで、 朝の重さが少し違った。
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教室へ入る。
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いつもの景色。
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友達の声。
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机の音。
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窓から入る冬の光。
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何も変わっていない。
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なのに。
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直人の中だけが少し変わっていた。
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昼休み。
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図書室へ行く。
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扉を開ける。
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窓際。
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美月がいた。
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一瞬、 足が止まる。
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昨日話したからといって。
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今日も話せるとは限らない。
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そんな当たり前のことを考える。
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直人は席につく。
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本を開く。
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しばらくして。
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美月が顔を上げた。
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目が合う。
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直人は反射的に逸らしそうになる。
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でも。
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昨日より少しだけ耐えた。
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美月が小さく笑う。
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「こんにちは」
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たった一言。
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でも。
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直人には大きかった。
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「こんにちは」
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返せた。
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それだけで少し嬉しい。
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沈黙。
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いつもの直人なら、 この沈黙で焦る。
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何か言わなければ。
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嫌われる前に。
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そう思っていた。
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でも。
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美月は気にしていなかった。
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ただ本を読んでいる。
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その自然さが不思議だった。
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しばらくして。
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美月が言った。
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「本、読み終わった?」
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「あ、うん」
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直人は本を閉じる。
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「面白かった」
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「どこが好きだった?」
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質問された。
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頭の中で準備していたわけではない。
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でも。
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今回は答えられた。
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「主人公が……」
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少しずつ話す。
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自分の感想。
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思ったこと。
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美月は聞いてくれる。
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否定しない。
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急かさない。
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直人は気づく。
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会話って。
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こんなに疲れないこともあるんだ。
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今までの会話は、 常に試験みたいだった。
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正しい返事。
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正しいタイミング。
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相手を不快にしない言葉。
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全部考えていた。
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でも。
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美月との会話は違った。
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少し間があっても。
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言葉が詰まっても。
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待ってくれる。
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放課後。
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帰り道。
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直人は少しだけ浮かれていた。
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翔がすぐ気づく。
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「今日なんかあった?」
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「別に」
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直人は答える。
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でも。
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顔には出ていた。
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翔は笑う。
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「分かりやすいな」
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夜。
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布団の中。
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直人は考える。
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美月といる時間。
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不思議だった。
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無理をしなくていい。
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完璧じゃなくていい。
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失敗しても、 すぐ終わりにならない。
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そんな場所があることを、 初めて知った。
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まだこの頃の直人は知らない。
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人を好きになるということは、
その人の前で「本当の自分」を少しずつ出せるようになることでもあることを。
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そして。
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自分を理解してくれる存在との出会いが、
後に大きな支えになることを。
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冬休み前。
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直人の世界には、
小さな光が灯り始めていた。




