第31話 「恋愛という分からない世界」
秋が深まる。
---
校庭の木々も少しずつ色づき始めていた。
---
文化祭が終わり。
進路の話も一段落し。
---
高校生活は再び日常へ戻っていた。
---
そんなある日の昼休み。
---
男子たちが盛り上がっていた。
---
話題は恋愛だった。
---
「お前絶対あの子好きだろ」
---
「違うって」
---
「顔赤いぞ」
---
笑い声が広がる。
---
直人は少し離れた場所で弁当を食べていた。
---
聞こえてくる会話。
---
誰が誰を好きだとか。
---
誰と付き合ったとか。
---
告白したとか。
---
そういう話。
---
周りは楽しそうだった。
---
だが直人には、 その世界が少し遠かった。
---
嫌いなわけではない。
---
興味がないわけでもない。
---
ただ。
---
よく分からなかった。
---
誰かを好きになる感覚。
---
どういうものなのだろう。
---
放課後。
---
翔と帰る。
---
途中で女子生徒のグループとすれ違う。
---
翔がふと笑う。
---
「最近あの子可愛いと思うんだよな」
---
自然な一言だった。
---
直人は驚く。
---
「そういうの分かるの?」
---
翔が笑う。
---
「何だよその質問」
---
直人も苦笑する。
---
でも本気だった。
---
本当に分からなかった。
---
翔は少し考える。
---
「なんとなくじゃない?」
---
「なんとなく?」
---
「一緒にいたいとか」
---
「話したいとか」
---
「そういう感じ」
---
直人は黙る。
---
そんな感覚。
---
今まで考えたことがなかった。
---
家へ帰る。
---
夕食。
---
テレビドラマでは恋愛シーンが流れている。
---
主人公とヒロイン。
---
見つめ合う。
---
気持ちを伝える。
---
感動的な場面。
---
でも。
---
直人には少し不思議だった。
---
どうしてそこまで誰かを好きになれるのだろう。
---
夜。
---
布団の中。
---
今日の会話を思い出す。
---
恋愛。
---
好きな人。
---
付き合う。
---
どれも現実味がない。
---
まず。
---
自分には友達作りすら難しい。
---
そんな人間が、 恋愛なんてできるのだろうか。
---
そんな考えが浮かぶ。
---
まだこの頃の直人は知らない。
---
数か月後。
---
ある一人の少女との出会いが、
この考えを大きく変えることを。
---
そして。
---
人を好きになるという感情が、
喜びだけでなく、 新しい苦しみも連れてくることを。
---
高校一年の秋。
---
直人はまだ、
恋愛という世界の入り口にも立っていなかった。
---
だが。
---
その扉は静かに、
少しずつ開き始めていた。




