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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第30話 「初めて褒められた能力」

進路希望調査票を提出して数日後。



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直人は放課後、 職員室へ呼ばれていた。



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理由は文化祭関係の書類だった。



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実行委員が提出した資料の整理。



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担任から頼まれた仕事だった。



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「悪いな、ちょっと手伝ってくれ」



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直人は頷く。



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職員室の机には、 たくさんの書類が積まれていた。



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クラスごとの企画書。



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予算表。



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備品申請書。



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確認書類。



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どれも似たような紙ばかりだった。



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直人は順番に整理していく。



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番号を確認する。



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不足を探す。



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並びを揃える。



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気づけば一時間近く経っていた。



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担任が書類を確認する。



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そして言った。



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「助かった」



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直人は軽く会釈する。



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すると担任は続けた。



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「こういう作業、得意だろ」



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直人は顔を上げる。



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予想していなかった言葉だった。



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「え?」



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「抜けてる書類も見つけてたし」



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「整理も早いし」



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「細かいところによく気付く」



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直人は黙る。



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そんな風に言われたことがなかった。



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今まで。



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細かい。



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気にしすぎ。



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考えすぎ。



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そう言われることはあった。



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でも。



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それを長所として言われたことはなかった。



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担任は気にせず続ける。



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「世の中、そういう人が必要なんだぞ」



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直人は返事ができなかった。



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帰り道。



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夕暮れの空。



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いつもより少し明るく見えた。



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自分の欠点だと思っていたもの。



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それが。



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もしかしたら。



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別の見方もあるのかもしれない。



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夜。



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部屋。



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机の前に座る。



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今日の言葉を思い出す。



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細かいところによく気付く。



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整理が得意。



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確認が丁寧。



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派手ではない。



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誰かに自慢できる能力でもない。



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でも。



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ゼロではなかった。



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自分には何もない。



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そう思っていた。



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けれど。



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本当に何もない人間なら、 あんな言葉は出てこないはずだった。



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布団の中。



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直人は考える。



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もしかしたら。



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自分は普通じゃないのではなく。



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周りと違う得意分野を持っているだけなのかもしれない。



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もちろん、 すぐに自信になるわけではない。



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明日になればまた悩む。



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また落ち込む。



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それでも。



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今日の言葉は心のどこかに残った。



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まだこの頃の直人は知らない。


将来、 その「細かいことに気付く力」が仕事で武器になることを。



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そして。



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今は弱点だと思っている特性の一部が、


環境によっては大きな強みへ変わることを。



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高校一年の秋。



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直人は初めて、


自分の中にある小さな長所の存在を知ったのだった。

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