第28話 「進路希望調査」
文化祭が終わり、 学校は少しずつ日常へ戻っていった。
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秋の風が吹く。
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窓から入る空気も、 夏とは違っていた。
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そんなある日。
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担任が一枚の紙を配った。
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進路希望調査票。
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教室がざわつく。
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「まだ決めてないって」
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「大学かな」
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「就職もありかも」
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周りから声が聞こえる。
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直人は紙を見る。
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そこにはシンプルな質問が並んでいた。
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将来の希望。
進学先。
就職希望。
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たったそれだけ。
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なのに。
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何も書けなかった。
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放課後。
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教室には数人しか残っていない。
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直人は調査票を見つめていた。
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将来。
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その言葉が遠い。
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何になりたいか。
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何が向いているか。
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何をしたいか。
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どれも分からない。
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小さい頃は違った。
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警察官。
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ゲームクリエイター。
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漫画家。
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色々な夢があった。
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でも今は違う。
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まず。
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普通に生きられるのか。
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その不安の方が大きい。
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進路を考える前に。
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毎日をこなすだけで精一杯だった。
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帰り道。
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翔と歩く。
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「進路決めた?」
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聞いてみる。
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翔は即答した。
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「全然」
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思わず笑う。
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「そんなすぐ決まらないだろ」
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翔はそう言う。
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でも直人には羨ましかった。
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翔は迷っていても、 それを自然に受け入れている。
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自分は違う。
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迷っていること自体が不安になる。
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夜。
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部屋。
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進路希望調査票が机に置かれている。
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白いまま。
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何も書かれていない。
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ペンを持つ。
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止まる。
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また置く。
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何度も繰り返す。
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その時。
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ふと思った。
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自分は将来何がしたいのだろう。
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ではなく。
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自分は何ができるのだろう。
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その考えだった。
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そして。
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その問いにも答えられなかった。
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布団の中。
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天井を見る。
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文化祭が終わった。
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次の目標は進路になる。
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周りは少しずつ未来へ進んでいる。
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でも直人だけが、 立ち止まっている気がした。
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まだこの頃の直人は知らない。
進路とは、
最初から正解を見つけるものではなく、
迷いながら選び続けるものだということを。
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そして、
「何になりたいか」より先に、
「どんな環境なら自分らしく生きられるか」
を考えることが、 自分には必要だったことを。
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秋の夜。
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進路希望調査票は、 まだ真っ白なままだった。
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その白さが、
未来そのもののように見えていた。




