第25話 「崩れる前の静かな日」
文化祭まで一週間。
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学校全体が慌ただしくなっていた。
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廊下にはポスター。
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教室には段ボール。
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放課後になると、 あちこちから声が聞こえる。
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「これ足りない!」
「誰か手伝って!」
「時間ない!」
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みんな必死だった。
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直人も動いていた。
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資料を確認する。
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備品を数える。
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連絡事項を書く。
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やるべきことは分かっていた。
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でも。
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以前のような焦りは少し違った。
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全部完璧にしなければ。
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全部自分がやらなければ。
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その考えが、 少しだけ弱くなっていた。
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翔の言葉が残っていた。
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「本当に大丈夫か考えた方がいい」
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だから。
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一つだけ変えた。
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分からないことを聞く。
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確認する。
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今までなら、 迷惑だと思っていたこと。
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それをやってみる。
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「これって、この認識で合ってる?」
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委員長に聞く。
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すると。
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「うん、それで大丈夫」
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普通の返事。
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怒られない。
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呆れられない。
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ただ確認できただけ。
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直人は少し不思議だった。
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今まで、 聞いたら弱いと思われる気がしていた。
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でも実際は違った。
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放課後。
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教室で作業を続ける。
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周りは楽しそうに話している。
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笑い声。
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ふざけた会話。
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直人は少し離れた場所で作業している。
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以前なら、 その輪に入れないことばかり考えていた。
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でも今日は違った。
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自分はここにいる。
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役割がある。
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それだけで少し安心した。
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帰り道。
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翔が言う。
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「最近、少し変わったな」
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「そう?」
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「前より無理してる感じが減った」
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直人は考える。
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確かに。
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まだ疲れている。
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まだ不安もある。
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でも、 全部隠そうとはしなくなっていた。
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夜。
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布団の中。
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明日は文化祭前日。
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不安はある。
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失敗するかもしれない。
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迷惑をかけるかもしれない。
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でも。
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少なくとも今の直人は知っていた。
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失敗しても、 全部が終わるわけではない。
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誰かに聞いてもいい。
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休んでもいい。
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そんな当たり前のことを、 少しずつ覚えていた。
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まだこの頃の直人は知らない。
翌日に起こる出来事が、
彼の中にある「普通」という考えを、 大きく揺さぶることを。
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そして、 高校生活で一番苦しい経験になることを。
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文化祭前夜。
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直人は不安を抱えながらも、
今までより少しだけ自分を責めずに、 眠りについた。




