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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第23話 「頑張れる人という誤解」

直人は、 周りから見ると真面目な生徒だった。



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提出物は出す。



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授業は休まない。



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頼まれたことは断らない。



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だから周囲は思っていた。



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「直人なら大丈夫」



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その言葉が、 少しずつ直人を追い込んでいた。



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ある日の放課後。



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文化祭準備の仕事をしていると、 委員長が言った。



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「直人、これもお願いしていい?」



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机の上に資料が置かれる。



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本来なら断っていい量だった。



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今でも抱えている仕事がある。



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でも。



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「分かった」



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そう答えていた。



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口が先に動いた。



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帰り道。



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自分で驚く。



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どうして断れなかったのか。



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嫌だったわけではない。



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困っている人を助けたい気持ちはある。



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でも、 今の自分には余裕がない。



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それも分かっていた。



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なのに言えなかった。



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家へ帰る。



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机の上。



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学校の課題。


文化祭資料。


追加された作業。



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全部並んでいる。



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どれから手をつければいいか分からない。



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頭の中で順番を考える。



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でも考えるほど混乱する。



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一つ始める。



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別のことが気になる。



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そちらへ移る。



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また別のことが浮かぶ。



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気づけば時間だけが過ぎている。



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夜遅く。



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母が部屋を覗く。



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「まだやってるの?」



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直人は答える。



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「うん」



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「無理しすぎじゃない?」



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その言葉。



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普通なら心配されていると分かる。



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でも直人には違って聞こえた。



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“自分は要領が悪い”



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そう言われた気がした。



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「大丈夫」



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また言う。



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いつもの言葉。



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本当は大丈夫ではない。



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でも、 大丈夫じゃないと言う方法を知らなかった。



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翌日。



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学校。



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委員長が言う。



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「助かった、ありがとう」



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その言葉で少し救われる。



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でも同時に苦しくなる。



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ありがとうと言われると、 次も応えなければいけない気がする。



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夜。



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布団の中。



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直人は考える。



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頑張ることは悪いことじゃない。



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でも。



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“頑張れる人”と思われることは、 時々怖い。



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限界を見せられなくなる。



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弱音を吐けなくなる。



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まだこの頃の直人は知らない。


本当に必要なのは、 いつでも頑張ることではなく、


自分の限界を伝える力だったことを。



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そして、 助けを求めることは、 迷惑をかけることではないことを。



---


ただこの夜も、


「明日はもう少し上手くやろう」


そう思いながら眠りについた。



---


しかし、 その“もう少し”が、


直人を少しずつ追い詰めていく。

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