第23話 「頑張れる人という誤解」
直人は、 周りから見ると真面目な生徒だった。
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提出物は出す。
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授業は休まない。
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頼まれたことは断らない。
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だから周囲は思っていた。
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「直人なら大丈夫」
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その言葉が、 少しずつ直人を追い込んでいた。
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ある日の放課後。
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文化祭準備の仕事をしていると、 委員長が言った。
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「直人、これもお願いしていい?」
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机の上に資料が置かれる。
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本来なら断っていい量だった。
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今でも抱えている仕事がある。
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でも。
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「分かった」
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そう答えていた。
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口が先に動いた。
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帰り道。
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自分で驚く。
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どうして断れなかったのか。
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嫌だったわけではない。
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困っている人を助けたい気持ちはある。
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でも、 今の自分には余裕がない。
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それも分かっていた。
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なのに言えなかった。
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家へ帰る。
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机の上。
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学校の課題。
文化祭資料。
追加された作業。
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全部並んでいる。
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どれから手をつければいいか分からない。
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頭の中で順番を考える。
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でも考えるほど混乱する。
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一つ始める。
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別のことが気になる。
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そちらへ移る。
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また別のことが浮かぶ。
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気づけば時間だけが過ぎている。
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夜遅く。
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母が部屋を覗く。
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「まだやってるの?」
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直人は答える。
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「うん」
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「無理しすぎじゃない?」
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その言葉。
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普通なら心配されていると分かる。
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でも直人には違って聞こえた。
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“自分は要領が悪い”
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そう言われた気がした。
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「大丈夫」
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また言う。
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いつもの言葉。
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本当は大丈夫ではない。
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でも、 大丈夫じゃないと言う方法を知らなかった。
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翌日。
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学校。
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委員長が言う。
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「助かった、ありがとう」
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その言葉で少し救われる。
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でも同時に苦しくなる。
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ありがとうと言われると、 次も応えなければいけない気がする。
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夜。
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布団の中。
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直人は考える。
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頑張ることは悪いことじゃない。
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でも。
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“頑張れる人”と思われることは、 時々怖い。
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限界を見せられなくなる。
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弱音を吐けなくなる。
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まだこの頃の直人は知らない。
本当に必要なのは、 いつでも頑張ることではなく、
自分の限界を伝える力だったことを。
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そして、 助けを求めることは、 迷惑をかけることではないことを。
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ただこの夜も、
「明日はもう少し上手くやろう」
そう思いながら眠りについた。
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しかし、 その“もう少し”が、
直人を少しずつ追い詰めていく。




