第22話 「限界のサイン」
文化祭まで三週間。
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準備は本格化していた。
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授業。
宿題。
実行委員。
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毎日やることが増えていく。
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直人も頑張っていた。
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少なくとも、 自分なりには。
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忘れないようにメモを書く。
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締切を書き出す。
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予定表を確認する。
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何度も確認する。
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それでも不安だった。
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何か忘れている気がする。
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何か抜けている気がする。
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その感覚が消えない。
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ある日の朝。
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目覚ましが鳴る。
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体が動かない。
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眠いわけではない。
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だるいわけでもない。
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ただ、 起き上がる気力が出ない。
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天井を見つめる。
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学校へ行かなければならない。
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それは分かっている。
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でも体が拒否しているようだった。
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何分も動けない。
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結局、 無理やり起きる。
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学校へ行く。
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授業を受ける。
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会話もする。
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普通に過ごしているように見える。
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でも頭が重い。
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集中が続かない。
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先生の話が耳に入ってこない。
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ノートを書いていても、 途中で意識が飛ぶ。
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放課後。
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実行委員会。
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資料を配る。
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人数を確認する。
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作業を進める。
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だが。
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小さなミスが増えていた。
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印刷枚数を間違える。
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予定を書き忘れる。
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連絡事項を一つ抜かす。
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以前なら修正できた。
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でも最近は違う。
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修正したつもりで、 また別のミスが出る。
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終わらない。
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帰り道。
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足が重い。
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翔が言う。
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「最近顔色悪いぞ」
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直人は笑う。
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「そうかな」
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でも自分でも分かっていた。
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疲れている。
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かなり疲れている。
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夜。
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机に向かう。
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宿題を開く。
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だが文字が頭に入らない。
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五分。
十分。
十五分。
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ページが進まない。
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気づけば、 ただ教科書を見ているだけだった。
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布団に入る。
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本当は眠りたい。
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でも頭は止まらない。
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締切。
予定。
失敗。
文化祭。
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考えが次々浮かぶ。
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まだこの頃の直人は知らない。
心には、 体と同じように限界のサインがあることを。
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そして、 真面目な人ほどそのサインを無視してしまうことを。
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直人はまだ思っていた。
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「もう少し頑張れば大丈夫」
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そう信じていた。
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だが実際には。
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彼の心は少しずつ、 確実に悲鳴を上げ始めていた。
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そして文化祭当日へ向けて、
その悲鳴は誰にも聞こえないまま大きくなっていくのだった。




