第21話 「誰も気にしていない」
翌朝。
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直人は重い気持ちのまま学校へ向かった。
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昨日の会議。
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あの一言。
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「ちゃんと書いてました」
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たったそれだけ。
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でも直人の頭の中では、 何十回も再生されていた。
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言い方がきつかったかもしれない。
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空気を悪くしたかもしれない。
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嫌われたかもしれない。
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そんな考えが止まらない。
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教室へ入る。
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いつもより緊張する。
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昨日の委員たちがいる。
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誰かが怒っているかもしれない。
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気まずい空気になっているかもしれない。
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そう思っていた。
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しかし。
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何も変わっていなかった。
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「おはよう」
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「眠いなー」
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「宿題やった?」
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いつもの朝。
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誰も昨日のことを話していない。
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誰も怒っていない。
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誰も覚えていないように見える。
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直人は混乱した。
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昼休み。
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実行委員の男子とすれ違う。
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昨日、 言い返した相手だった。
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直人は身構える。
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すると。
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「おー直人」
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普通だった。
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本当に普通だった。
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昨日と何も変わらない。
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「お疲れ」
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それだけ言って通り過ぎる。
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直人は立ち止まる。
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拍子抜けした。
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放課後。
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実行委員会。
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昨日の話題が少し出る。
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委員長が笑いながら言う。
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「昨日バタバタしてたな」
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みんな笑う。
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それだけだった。
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誰も深刻に考えていない。
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誰も根に持っていない。
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誰も責めていない。
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会議が終わる。
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帰り道。
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翔に話す。
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「昨日のこと、誰も気にしてなかった」
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翔は笑った。
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「だろうな」
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「でも俺ずっと考えてた」
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「それもだろうな」
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直人は苦笑する。
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図星だった。
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翔は言う。
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「直人ってさ」
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「うん」
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「自分の失敗だけ拡大して見てる時あるよな」
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直人は返事ができなかった。
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確かにそうかもしれない。
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昨日の会議。
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自分にとっては大事件だった。
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でも周りにとっては、 よくある小さな意見の違いだった。
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夜。
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布団の中。
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直人は考える。
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自分の世界と、 他人の世界は違う。
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自分が忘れられないことを、 相手は数分で忘れている。
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逆もあるのだろう。
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まだこの頃の直人は知らない。
この気づきが、 後の人生で自分を救う考え方になることを。
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そして、 人は思っているほど他人を見ていないという事実が、 時に自由を与えてくれることを。
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ただこの夜は、
少しだけ肩の力が抜けたまま、
久しぶりに深い眠りへ落ちていった。




