第20話 「初めての衝突」
文化祭まで一か月。
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実行委員たちの空気が変わり始めていた。
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最初は楽しかった。
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文化祭というイベントに向かって、 みんな同じ方向を見ていた。
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だが、 準備が本格化すると違う。
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意見の対立。
責任の押し付け合い。
進捗の遅れ。
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少しずつ、 余裕がなくなっていく。
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その日の会議もそうだった。
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教室には重い空気が流れていた。
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「これ誰がやるんだよ」
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「聞いてないんだけど」
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「前に決めただろ」
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言葉が強い。
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直人は黙って聞いていた。
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自分が口を出せる空気ではない。
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そう思った。
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だが。
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その議題は、 直人が担当していた資料に関係していた。
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先週提出した確認表。
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そこに書いてあった内容が、 共有されていないらしい。
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委員長が言う。
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「確認表どうなってたっけ?」
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誰も答えない。
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直人は知っている。
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自分が作ったから。
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言わなきゃいけない。
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そう思う。
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心臓が速くなる。
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手が少し震える。
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それでも口を開く。
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「あの……」
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全員の視線が向く。
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一瞬で頭が真っ白になる。
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だが続ける。
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「確認表には書いてあります」
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教室が静かになる。
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委員長が見る。
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「え?」
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「先週配った資料です」
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直人は答える。
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すると。
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別の男子が言った。
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「いや、分かりにくかっただろ」
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その一言。
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悪意はない。
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でも直人の胸に刺さる。
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「ちゃんと書いてました」
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気づけば言い返していた。
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自分でも驚く。
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教室がさらに静かになる。
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今までの直人なら、 絶対に言わなかった。
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男子も少し驚いた顔をする。
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「いや、だからさ」
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言いかける。
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委員長が割って入る。
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「まあまあ」
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場は収まった。
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会議も続いた。
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でも。
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直人の中では終わっていなかった。
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帰り道。
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胸が苦しい。
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言い返してしまった。
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空気を悪くしたかもしれない。
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嫌われたかもしれない。
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そんな考えばかり浮かぶ。
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夜。
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布団の中。
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何度も会議を思い返す。
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自分は間違っていたのか。
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いや。
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本当に書いていた。
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嘘ではない。
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でも、 言い方があったかもしれない。
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もっと上手く伝えられたかもしれない。
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考え始めると止まらない。
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まだこの頃の直人は知らない。
自分を守るために意見を言うことと、 人と衝突することは別だということを。
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そして、 長年我慢してきた人ほど、
初めての反論の後に強い罪悪感を抱くことを。
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ただこの夜は、
人生で初めてぶつかった他人との距離感に戸惑いながら、
なかなか眠ることができなかった。




