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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第19話 「善意で言われる言葉」

文化祭の準備は続いていた。



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会議。


作業。


打ち合わせ。



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周りは少しずつ盛り上がっている。



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だが直人の中には、 言葉にできない焦りが溜まっていた。



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参加している。



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出席もしている。



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準備もしている。



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それなのに、 自分だけ何もできていない気がする。



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ある日の放課後。



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実行委員のメンバーたちが教室で作業していた。



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ポスター作り。


企画書の整理。


備品の確認。



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直人も黙々と作業している。



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その時、 委員長の男子が声をかけた。



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「直人、もっと積極的にいこうぜ」



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笑顔だった。



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責めているわけではない。



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本気で励ましている。



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直人も分かっている。



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だから余計につらかった。



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積極的になれるならなっている。



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話しかけられるなら話しかけている。



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発言できるならしている。



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でも、 それができない。



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それを説明する言葉もない。



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「うん」



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直人はそう答える。



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それしか言えない。



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しばらくして。



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別の女子委員も言った。



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「もっと自信持っていいと思うよ」



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優しい声だった。



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本当に優しかった。



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だから直人は笑顔を作る。



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「ありがとう」



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そう返す。



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でも心の中では思う。



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自信がないからできないのだろうか。



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違う気がする。



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自信があっても、 会話のタイミングは分からない。



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自信があっても、 頭の整理に時間がかかる。



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自信があっても、 空気を読むのは難しい。



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問題はそこではない。



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でも、 その違和感を説明できない。



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帰り道。



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空はもう暗かった。



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街灯が並ぶ歩道を歩く。



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ふと、 翔の言葉を思い出す。



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「みんな何かしら変なところあるだろ」



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あの時は少し楽になった。



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でも今は違う。



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自分の“変なところ”だけが、 どんどん大きく見える。



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夜。



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布団の中。



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今日言われた言葉を思い返す。



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「もっと積極的に」



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「もっと自信持って」



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どちらも善意だった。



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本当に善意だった。



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だから否定できない。



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でも、 その言葉では届かない場所に、 今の自分はいる気がした。



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まだこの頃の直人は知らない。


世の中には、 正しい助言なのに役に立たない場面があることを。



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そして、 本人が抱えている問題と、 周囲が見ている問題が違うこともあるのだと。



---


ただこの夜は、


励まされるほど苦しくなる自分に戸惑いながら、


静かに目を閉じた。

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