第17話 「文化祭実行委員」
高校一年の秋。
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文化祭の準備が始まった。
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教室全体が少し浮き足立つ。
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授業中も文化祭の話。
休み時間も文化祭の話。
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普段あまり話さない生徒同士も、 自然に会話している。
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直人はその空気を少し遠くから見ていた。
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ホームルーム。
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担任が言う。
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「文化祭実行委員を決めるぞ」
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教室が静かになる。
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誰も手を挙げない。
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いつもの光景だった。
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「誰かいないか?」
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沈黙。
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先生が困った顔をする。
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その時。
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直人は思った。
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“やってみようかな”
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自分でも驚いた。
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普段なら絶対に避ける。
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目立つこと。
人前に出ること。
責任を持つこと。
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全部苦手だった。
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でも最近、 翔と話すようになってから少し変わっていた。
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失敗してもいい。
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そんな考えが、 ほんの少しだけ芽生えていた。
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直人は手を挙げた。
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教室が少しざわつく。
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担任は嬉しそうだった。
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「直人、やってくれるか?」
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「はい」
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声は小さかった。
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でも確かに言った。
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放課後。
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文化祭実行委員の集まり。
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他クラスの委員も集まる。
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知らない顔ばかり。
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緊張する。
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会議が始まる。
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次々と意見が出る。
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「こうしよう」
「それ面白そう」
「予算は?」
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話が速い。
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直人はついていくだけで精一杯だった。
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何か言おうと思う。
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でもタイミングがない。
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気づけば会議が終わる。
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一言も発言できなかった。
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帰り道。
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胸が重い。
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やっぱり無理だった。
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そう思った。
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翔が待っていた。
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「委員どうだった?」
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直人は苦笑する。
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「何もできなかった」
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翔は笑う。
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「初日だろ?」
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「でも全然話せなかった」
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「話せなくても行ったんだから十分じゃね?」
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直人は黙る。
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そんな評価をされたことがなかった。
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今までの自分なら、
“できたかできなかったか”
だけだった。
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でも翔は違った。
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“挑戦したかどうか”
を見ていた。
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夜。
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布団の中。
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今日を思い返す。
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確かに失敗した。
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何も発言できなかった。
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でも。
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逃げなかった。
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そこだけは事実だった。
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まだこの頃の直人は知らない。
この文化祭実行委員が、 高校生活最大の挫折と、 最大の成長の始まりになることを。
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そして数か月後。
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教室中の視線を浴びながら、
人生で初めて 本気で心が折れる出来事が待っていることを。
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その予兆だけが、
静かに動き始めていた。




