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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第16話 「みんなが簡単にできること」

高校生活にも少し慣れてきた頃だった。



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直人はあることに気づき始めていた。



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みんなが簡単にできることが、 自分には異常に難しい。



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勉強ではない。



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運動でもない。



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もっと当たり前のことだった。



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昼休み。



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クラスメイトたちは自然に席を移動する。



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「一緒に食べようぜ」



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「今日どこ行く?」



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「放課後暇?」



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そんな会話が飛び交う。



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誰も悩んでいないように見える。



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誰も練習していないように見える。



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でも直人には難しかった。



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話しかけるタイミング。


声をかける理由。


会話の終わらせ方。



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全部を考えてしまう。



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考えている間に、 機会が終わる。



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ある日。



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教室で席替えがあった。



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周りは楽しそうだった。



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「隣よろしく」



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自然に話し始める。



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直人の隣になった男子も、



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「よろしく」



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と笑った。



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直人も返した。



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「よろしく」



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そこで終わった。



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その後どう続ければいいか分からない。



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話題を探す。



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考える。



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迷う。



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そして沈黙になる。



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放課後。



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翔が言う。



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「また考え込んでたな」



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直人は苦笑する。



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図星だった。



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「みんな簡単そうなのにな」



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思わず漏れる。



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翔は少し考えた。



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「簡単そうに見えるだけかもな」



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直人は首を振る。



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違う気がした。



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自分は明らかに苦労している。



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周りは自然にやっている。



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その差を毎日見ている。



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家へ帰る。



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夕食。



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テレビではバラエティ番組が流れている。



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出演者たちは次々会話をつなぐ。



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笑う。



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返す。



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広げる。



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直人は思う。



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自分には無理だ。



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あんな風にはなれない。



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夜。



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布団の中。



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高校へ入ってから、 少しずつ分かってきたことがある。



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努力不足ではない。



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でも努力だけでもない。



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何か別の壁がある。



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見えない壁。



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触れられない壁。



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説明できない壁。



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それが、 自分と周囲の間にある気がしていた。



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まだこの頃の直人は知らない。


この感覚が、 やがて自分自身を知るための入り口になることを。



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そして、


「みんなと同じになれない」


という絶望の先に、


「自分に合った生き方を探す」


という新しい道があることを。



---


ただこの夜は、


自分だけが取り残されているような気持ちのまま、 静かに目を閉じた。

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