第16話 「みんなが簡単にできること」
高校生活にも少し慣れてきた頃だった。
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直人はあることに気づき始めていた。
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みんなが簡単にできることが、 自分には異常に難しい。
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勉強ではない。
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運動でもない。
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もっと当たり前のことだった。
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昼休み。
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クラスメイトたちは自然に席を移動する。
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「一緒に食べようぜ」
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「今日どこ行く?」
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「放課後暇?」
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そんな会話が飛び交う。
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誰も悩んでいないように見える。
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誰も練習していないように見える。
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でも直人には難しかった。
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話しかけるタイミング。
声をかける理由。
会話の終わらせ方。
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全部を考えてしまう。
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考えている間に、 機会が終わる。
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ある日。
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教室で席替えがあった。
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周りは楽しそうだった。
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「隣よろしく」
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自然に話し始める。
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直人の隣になった男子も、
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「よろしく」
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と笑った。
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直人も返した。
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「よろしく」
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そこで終わった。
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その後どう続ければいいか分からない。
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話題を探す。
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考える。
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迷う。
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そして沈黙になる。
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放課後。
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翔が言う。
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「また考え込んでたな」
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直人は苦笑する。
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図星だった。
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「みんな簡単そうなのにな」
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思わず漏れる。
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翔は少し考えた。
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「簡単そうに見えるだけかもな」
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直人は首を振る。
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違う気がした。
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自分は明らかに苦労している。
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周りは自然にやっている。
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その差を毎日見ている。
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家へ帰る。
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夕食。
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テレビではバラエティ番組が流れている。
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出演者たちは次々会話をつなぐ。
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笑う。
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返す。
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広げる。
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直人は思う。
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自分には無理だ。
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あんな風にはなれない。
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夜。
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布団の中。
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高校へ入ってから、 少しずつ分かってきたことがある。
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努力不足ではない。
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でも努力だけでもない。
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何か別の壁がある。
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見えない壁。
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触れられない壁。
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説明できない壁。
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それが、 自分と周囲の間にある気がしていた。
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まだこの頃の直人は知らない。
この感覚が、 やがて自分自身を知るための入り口になることを。
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そして、
「みんなと同じになれない」
という絶望の先に、
「自分に合った生き方を探す」
という新しい道があることを。
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ただこの夜は、
自分だけが取り残されているような気持ちのまま、 静かに目を閉じた。




