第15話 「普通になりたい」
高校へ入学して数か月。
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直人の中には、 ずっと消えない願いがあった。
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それはシンプルだった。
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「普通になりたい」
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ただそれだけだった。
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特別になりたいわけじゃない。
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人気者になりたいわけでもない。
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勉強で一番になりたいわけでもない。
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ただ、 みんなと同じように生きたい。
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みんなと同じように笑いたい。
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みんなと同じように話したい。
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みんなと同じように疲れずに学校へ行きたい。
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それだけだった。
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昼休み。
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教室では笑い声が響いている。
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誰かが恋愛の話をしている。
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別の誰かがゲームの話をしている。
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自然に会話が流れていく。
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直人はその様子を見る。
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羨ましい。
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ただ羨ましい。
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彼らに悪意はない。
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自分を仲間外れにしているわけでもない。
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でも、 同じ場所にいても違う世界に見える。
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翔が言う。
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「どうした?」
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直人は少し考える。
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そして言う。
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「普通になりたいなって」
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翔は黙る。
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しばらく何も言わない。
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直人は少し後悔する。
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変なことを言ったかもしれない。
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そう思った時だった。
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翔が言う。
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「普通って何?」
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直人は答えられない。
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考えたことがなかった。
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ただ、 周りの人みたいになりたかった。
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でも、 その“周り”が何なのかは説明できない。
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翔は続ける。
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「俺も普通じゃないと思うぞ」
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「え?」
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「みんな何かしら変なところあるだろ」
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笑いながら言う。
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直人には信じられなかった。
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自分だけが違うと思っていた。
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でも、 翔は違う景色を見ているようだった。
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帰り道。
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その言葉が頭から離れない。
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普通って何だろう。
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本当に存在するのだろうか。
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それとも、 自分が勝手に作った理想なのだろうか。
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夜。
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布団の中。
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天井を見つめる。
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今までずっと、
普通になれない自分を責めていた。
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でも今日初めて、
“普通そのもの”を疑った。
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もちろん、 答えは出ない。
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明日になれば、 また同じように悩むかもしれない。
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それでも。
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少しだけ。
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ほんの少しだけ。
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自分を責める力が弱くなっていた。
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まだこの頃の直人は知らない。
この問いが、 やがて人生を変えるほど大きなテーマになることを。
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そして、 「普通になれなかった」のではなく、
「自分に合わない普通を追い続けていた」
と気づく日が来ることを。
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ただこの夜は、
答えのない問いを抱えながらも、 少しだけ穏やかな気持ちで眠りについた。




