第13話 「少しだけ楽な場所」
直人は、 翔と話した翌日から何かが大きく変わったわけではなかった。
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朝はいつも通り不安だった。
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教室へ入る前に、 一度立ち止まる。
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今日は何が起きるだろう。
変なことを言わないだろうか。
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いつもの確認。
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でも、 昨日までとは少しだけ違った。
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“自分だけではない”
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その言葉が頭の片隅にあった。
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教室。
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翔が先に来ていた。
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「おはよう」
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直人も返す。
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「おはよう」
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たったそれだけ。
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でも、 その“それだけ”が少し楽だった。
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無理に面白いことを言わなくていい。
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すぐ返事をしなくても、 嫌な顔をされない。
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その感覚が新鮮だった。
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昼休み。
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翔が言う。
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「一緒に食べる?」
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一瞬、 直人は迷った。
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本当にいいのか。
迷惑じゃないのか。
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いつもの考えが出てくる。
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でも、 昨日の言葉を思い出す。
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「疲れてない?」
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気づいてくれた人。
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「……うん」
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小さく答える。
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机を移動する。
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会話は多くない。
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沈黙もある。
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でも、 その沈黙が苦しくなかった。
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今までの沈黙は、 “何か言わなきゃいけない時間” だった。
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でも翔との沈黙は、 ただ静かな時間だった。
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放課後。
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翔が聞く。
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「直人ってさ、何考えてるか分かりにくいよな」
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直人は少し固まる。
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また否定される。
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そう思った。
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でも続きがあった。
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「でも、ちゃんと考えてるのは分かる」
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その言葉。
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直人は返事ができなかった。
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今まで言われたことがない言葉だった。
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「考えすぎ」
「気にしすぎ」
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そう言われることはあった。
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でも、
“考えていることを理解される”
ことはなかった。
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家へ帰る。
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母が言う。
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「今日は少し違う顔してるね」
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直人は考える。
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違うのかもしれない。
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何かが解決したわけではない。
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でも、 一人で全部抱えなくてもいい場所がある。
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夜。
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布団の中。
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直人は考える。
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普通になること。
みんなと同じになること。
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それだけを目指していた。
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でももしかしたら、
“自分を変える”より先に、
“自分を分かってくれる場所を探す”
ことも必要なのかもしれない。
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まだこの頃の直人は知らない。
この小さな出会いが、 後の人生で大きな意味を持つことを。
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そして、 理解者という存在が、 壊れそうな心をつなぎ止める力になることを。




