第12話 「相談するという難しさ」
直人は、 悩みがあっても誰かに話すことができなかった。
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理由は単純だった。
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「何を相談すればいいのか分からない」
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それだった。
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困っていることはある。
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疲れている。
不安もある。
学校へ行けば、 毎日少しずつ削られている感覚がある。
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でも、 それを言葉にすると急に小さく見える。
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「友達が少ない」
「会話が苦手」
「疲れる」
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口に出すと、 ただの悩みに聞こえる。
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だから言えない。
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ある日の放課後。
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教室に残っていた直人に、 クラスメイトの翔が話しかける。
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「直人、帰らないの?」
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「うん、少しだけ」
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本当は、 帰るタイミングを逃していただけだった。
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翔は少し黙ってから言った。
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「最近、疲れてない?」
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直人の手が止まる。
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その言葉を聞いた瞬間、 少し怖くなった。
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“気づかれた”
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そう思った。
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「別に」
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反射的に答える。
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翔は笑わない。
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「そっか」
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それだけ。
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責めない。
深掘りもしない。
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その反応が、 逆に不思議だった。
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直人は今まで、 困っていると言うと、
「気にしすぎ」
「もっと頑張ればいい」
そう言われると思っていた。
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だから、 言わない方が楽だった。
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でも翔は違った。
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「俺もさ、高校入ってから結構しんどかった」
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突然、翔が言う。
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直人は顔を上げる。
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「翔が?」
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「うん。意外?」
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少し笑う。
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「周りに合わせるのって疲れるじゃん」
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その言葉。
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直人には少しだけ刺さった。
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今まで、 自分だけが苦しいと思っていた。
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でも、 他の人にも見えない苦労がある。
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その事実が少しだけ世界を変えた。
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帰り道。
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直人は一人で歩く。
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問題が解決したわけではない。
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明日から急に話せるわけでもない。
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でも、 初めて思った。
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“全部説明できなくてもいいのかもしれない”
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夜。
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布団の中。
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今日の会話を思い出す。
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「疲れてない?」
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その言葉が残る。
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自分でも気づいていなかった部分を、 誰かが見ていた。
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まだこの頃の直人は知らない。
理解者とは、 問題を消してくれる人ではなく、
“そのままの状態を否定せず見てくれる人”
なのだということを。
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ただこの夜は、
ほんの小さな安心を抱えながら、 いつもより少しだけ静かに眠りについた。




