第11話 「失敗を隠す癖」
直人は、 いつからか失敗そのものよりも、
“失敗したところを見られること”
が怖くなっていた。
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間違えることは誰にでもある。
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頭では分かっている。
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でも、 自分の場合は違う気がした。
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一度の失敗が、 「やっぱり自分はダメだ」という証明になる気がした。
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ある日の授業。
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グループ発表の準備。
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直人は資料を作っていた。
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何度も確認した。
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文字の間違い。
順番。
内容。
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全部見直した。
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発表当日。
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順番が来る。
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前へ出る。
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声が少し震える。
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でも話せている。
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途中までは順調だった。
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その時。
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一枚、 順番の違う資料が混ざっていることに気づく。
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一瞬止まる。
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周りを見る。
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先生を見る。
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誰かが気づく前に直そうとする。
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でも焦って、 余計に手が止まる。
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「大丈夫?」
先生が声をかける。
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直人はすぐ答える。
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「大丈夫です」
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本当は大丈夫ではない。
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でも、 助けを求める言葉が出ない。
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結局、 何とか終える。
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席へ戻る。
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周りは気にしていない。
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でも直人の中では終わっていない。
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放課後。
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友達が言う。
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「さっきちょっと焦ってたな」
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笑いながら。
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軽い一言。
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でも直人は、 胸が重くなる。
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“見られていた”
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その事実だけが残る。
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家へ帰る。
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母が聞く。
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「発表どうだった?」
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直人は少し考える。
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「普通」
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また同じ言葉。
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本当は、 普通ではなかった。
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夜。
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布団の中。
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今日の場面を繰り返す。
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あの時どうすればよかったか。
なぜ言えなかったか。
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考えても答えは出ない。
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ただ一つ分かる。
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次は、 もっと隠そう。
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次は、 失敗したところを見せないようにしよう。
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その考えが、 少しずつ直人の中に根づいていった。
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まだこの頃の直人は知らない。
失敗を隠すことは、 その場では自分を守れても、 長い目で見ると助けを遠ざけてしまうことを。
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そして、 誰にも見えない場所で一人で抱える癖になることを。
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ただこの夜は、
“次はもっと上手く隠さなきゃ”
そう思いながら、 静かな部屋で眠りについた。




