第8話 「説明できない“疲れ”が積もる」
直人の疲れは、 いつも説明できなかった。
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体を動かした疲れではない。
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頭の中の疲れだった。
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ある日の放課後。
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特に大きな出来事はなかった。
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授業も普通。
会話も少しあった。
注意もされていない。
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それなのに、 帰る頃には重い。
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理由がないまま重い。
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教室を出る。
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廊下に出た瞬間、 少しだけ息が楽になる。
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でも完全には抜けない。
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ずっと残っている。
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“気を張っていた感覚”
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家へ帰る。
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母が言う。
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「今日は早かったね」
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直人はうなずく。
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でも、 早く帰れたことと疲れは関係なかった。
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夜。
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机に座る。
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宿題を開く。
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でも集中が続かない。
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文字を読んでいるのに、 頭が遠い。
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一度止まると戻れない。
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そのまま時間が過ぎる。
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「今日は何もしてないのに疲れてる」
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そう思う。
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でも正確には違う。
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ずっと“気を使っていた”。
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ずっと“ずれないようにしていた”。
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その積み重ねだった。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「目に見えない認知負荷」が、 身体的な疲労と同じかそれ以上に消耗することを。
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そして、 本人が自覚しにくい形で蓄積することを。
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ただこの夜は、
理由のない重さを抱えたまま、 静かに机の前で時間を過ごしていた。




