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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第二章「高校生活:ズレが形になる」

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第6話 「話しているのに、いない扱い」

直人は、 会話に“参加しているはず”だった。



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同じ空間にいて。


同じ話を聞いていて。


時々返事もしている。



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それでも、 中心にはいなかった。



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ある日の昼休み。



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机を囲んで数人が話している。



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直人もその輪の端にいる。



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「それでさー」


「マジでウケる」


「やばいってそれ」



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会話は途切れない。



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直人は聞いている。



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内容は理解できる。



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でも、 会話の“流れ”が速い。



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一瞬の間で話題が切り替わる。



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そのたびに、 少しずつ遅れる。



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「なあ直人どう思う?」



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急に振られる。



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一瞬止まる。



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考えはある。



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でも、 言葉にする準備が追いつかない。



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「……そうだね」



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それ以上は出ない。



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そのまま会話は続く。



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直人の返事は、 流れに吸収されて消える。



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放課後。



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グループの誰かが言う。



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「さっき直人いたっけ?」



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冗談っぽい声。



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周りが笑う。



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直人も笑う。



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でも少しだけ遅れている。



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“そこにいたのに、いなかったみたい”



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そんな感覚が残る。



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家へ帰る。



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母が言う。



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「学校で話せてる?」



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直人はうなずく。



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でも本当は違う。



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“話している”と“混ざっている”は違う。



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夜。



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布団の中。



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今日の会話を思い返す。



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声は出している。



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でも、 残っていない気がする。



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記憶にも、 相手にも。



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まだこの頃の直人は知らない。


参加しているように見えても、 会話の中心構造に入れていない状態は起こりうることを。



---


そしてその状態が続くと、 「存在感の希薄化」として本人に蓄積していくことを。



---


ただこの夜は、


会話の中にいたはずの自分が少しずつ薄れていく感覚を抱えながら、 静かに眠りへ落ちていった。

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