第2話 「最初の一か月」
高校生活が始まって、一か月が過ぎた。
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周りでは少しずつ人間関係が固まり始めていた。
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昼休みに一緒に弁当を食べる相手。
放課後に帰る相手。
休日に連絡を取り合う相手。
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そういうものが、 自然に出来上がっていく。
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直人はそれを少し離れた場所から見ていた。
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教室の窓際。
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一人で弁当を開く。
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孤独というほどではない。
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でも、 誰かのグループの一員でもない。
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その中間にいる。
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最初の頃は、 話しかけてくれる人もいた。
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「どこ中だった?」
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「部活入るの?」
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「通学遠い?」
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そういう会話。
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直人も答えた。
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でも、 そこから先が続かない。
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会話の広げ方が分からない。
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相手の話題に乗り切れない。
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少し間が空く。
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その積み重ね。
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気づけば、 話しかけられる回数も減っていた。
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ある日の昼休み。
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教室の中央で、 男子たちが盛り上がっている。
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ゲームの話。
恋愛の話。
先生の話。
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笑い声が響く。
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直人も聞いている。
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内容は分かる。
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でも、 輪の中へ入るタイミングが分からない。
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だから黙っている。
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黙っていると、 さらに入りづらくなる。
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放課後。
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クラスメイトたちが帰っていく。
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「じゃあな!」
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「また明日!」
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そんな声が聞こえる。
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直人も帰る。
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でも、 誰かと帰る約束はない。
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家までの道。
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一人で歩く時間が長い。
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その時間だけは落ち着く。
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学校では常に気を張っている。
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一人になると、 ようやく呼吸ができる。
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家へ帰る。
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母が言う。
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「友達できた?」
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直人は少し考える。
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「……たぶん」
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名前は知っている。
話したこともある。
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でも、 友達なのかどうか分からない。
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夜。
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布団の中。
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高校へ入れば変われると思っていた。
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新しい環境なら、 今までと違う自分になれるかもしれないと思っていた。
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でも現実は違う。
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同じ場所で、 同じようにつまずいている。
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まだこの頃の直人は知らない。
この高校生活が、 自分の限界と向き合う最初の時期になることを。
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そして、 ここから少しずつ「無理をして合わせる自分」が強くなっていくことを。
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ただこの夜は、
窓の外の街灯を見つめながら、
「また同じなのかもしれない」
そんな言葉を胸の奥で静かにつぶやいていた。




