第46話 「“普通に見える日”ほど苦しい」
直人には、 外から見て何も問題がない日ほど苦しい日があった。
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失敗もない。
怒られもしない。
大きなズレも起きない。
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でもそれは、 “うまくいっている”とは違った。
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ただ、 ギリギリで合わせ続けているだけだった。
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ある日の学校。
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朝から特に何も起きない。
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授業も普通に進む。
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会話も少しはある。
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周りから見れば、 平穏な一日。
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でも直人の中では違う。
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ずっと調整している。
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声の大きさ。
タイミング。
表情。
視線。
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一つひとつを、 外れないように確認している。
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昼休み。
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笑う場面がある。
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直人も笑う。
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でも、 その笑いは自然ではない。
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“今は笑う場面だ”
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そう判断してから出している。
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放課後。
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何も問題は起きない。
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でも、 何も起きないことが逆に怖い。
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“今日もずっと気を張っていただけだった”
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その実感だけが残る。
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家へ帰る。
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母が言う。
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「今日は普通だったね」
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直人は少し止まる。
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その“普通”は安心なのか、 評価なのか分からない。
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ただ、 疲れだけは確かに残っている。
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夜。
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布団の中。
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今日一日を振り返る。
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何も起きなかった。
でも何も楽ではなかった。
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ずっと調整していた。
ずっと見ていた。
ずっと合わせていた。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「正常に見える状態」が、 最も消耗が大きい場合があることを。
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外からは問題がないように見えても、 内側では過負荷が続いていることを。
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ただこの夜は、
“普通だった一日”の重さを抱えたまま、 静かに眠りへ落ちていった。




