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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第45話 「沈黙が“正解”に見えてしまう」

直人は、 話すより黙るほうが安全だと感じるようになっていた。



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何かを言えばズレるかもしれない。


黙っていれば、少なくとも間違いにはならない。



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その考えが少しずつ染みついていく。



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ある日の授業。



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先生が質問をする。



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「この問題、どう思う?」



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クラスが静かになる。



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数人が手を挙げる。



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直人も考える。



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答えは浮かんでいる。



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でも、 それが正しいか確信がない。



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“間違っていたらどうしよう”



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その考えが先に来る。



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結局、手は上がらない。



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誰かが答える。



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先生は「いいね」と言う。



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直人は少し安心する。



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“言わなくてよかった”



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でも同時に、 小さな後悔も残る。



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昼休み。



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会話の中で、 一瞬だけ意見を求められる。



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「どう思う?」



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直人は止まる。



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頭の中で答えはある。



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でも、 言葉にする前に時間がかかる。



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その間に、 話題が少し動く。



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「まあいいや」



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その一言で終わる。



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直人は黙る。



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また沈黙が“正解”になった気がする。



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放課後。



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誰かが言う。



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「直人って静かだよな」



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褒めでもなく、責めでもない。



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ただの事実のような言葉。



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直人は笑う。



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でも内側では違う。



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静かでいることを選んでいるわけではない。



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選んだ結果というより、 そうならざるを得なかった。



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家へ帰る。



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母が言う。



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「もっと自分から話したら?」



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直人はうなずく。



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でも、 その“自分から”が一番難しい。



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夜。



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布団の中。



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今日の沈黙を思い返す。



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言えなかった言葉。


出さなかった意見。



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それでも、 大きな問題は起きていない。



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だから余計に分からない。



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これで良かったのか。



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まだこの頃の直人は知らない。


「問題が起きない選択」が、 必ずしも生きやすさにつながるわけではないことを。



---


むしろ沈黙が、 少しずつ存在感を薄くしていくことを。



---


ただこの夜は、


言葉にしなかった選択だけが積み重なりながら、 静かに眠りへ落ちていった。

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