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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第44話 「“頑張っているのに伝わらない”」

直人は、ずっと頑張っていた。



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遅れないように。


変に見えないように。


怒られないように。



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毎日、 頭の中では必死だった。



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でも、 その努力はほとんど誰にも見えていなかった。



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ある日の朝。



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直人は早めに学校へ来ていた。



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忘れ物をしないように、 家を出る前に何度も確認した。



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教室へ入る。



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ランドセルを置く。



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その時、 連絡帳を家へ忘れたことに気づく。



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頭が真っ白になる。



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“ちゃんと確認したのに”



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朝から頑張っていた時間が、 全部消えた気がした。



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先生に言う。



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「連絡帳、忘れました……」



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先生は軽く言う。



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「ちゃんと確認しなさい」



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その言葉に、 直人は何も返せない。



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“確認した”



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本当は何度も。



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でも、 それを説明する前に、 喉が止まる。



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昼休み。



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友達が言う。



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「直人って、ぼーっとしてるよな」



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笑いながら。



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悪意はない。



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でも直人は、 胸の奥が少し重くなる。



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ぼーっとしていたわけじゃない。



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むしろ、 ずっと頭の中は動いている。



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考えて、 確認して、 気を張っている。



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でも外からは、 そう見えない。



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放課後。



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掃除をしている。



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直人は真面目にやろうとする。



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でも細かい部分が気になって、 全体の流れから遅れる。



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「もっと早くやって」



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また言われる。



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頑張っているのに、 結果だけ見ると“できていない人”になる。



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家へ帰る。



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母が言う。



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「もっとしっかりして」



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直人はうなずく。



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でも、 もう十分頑張っている気もしていた。



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これ以上どう頑張ればいいのか、 分からない。



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夜。



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布団の中。



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今日言われた言葉を思い返す。



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「ちゃんとしなさい」


「ぼーっとしてる」


「もっと早く」



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どれも、 外から見えた結果の言葉だった。



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でも、 その前にある“必死さ”は、 誰にも見えていない。



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まだこの頃の直人は知らない。


発達特性を持つ子どもの多くが、 “努力不足”ではなく “努力が伝わらない苦しさ”を抱えていることを。



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外から見える行動と、 内側の負荷が一致しないことを。



---


ただこの夜は、


“こんなに頑張っているのに”


その言葉だけを胸の中で繰り返しながら、 静かに眠りへ落ちていった。

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