第43話 「“本当の自分”を出すのが怖い」
直人は、 少しずつ“自分を出さない方法”を覚えていた。
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本当に好きなこと。
本当に気になったこと。
本当に言いたいこと。
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それをそのまま出すと、 ズレることが増える。
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だから隠す。
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ある日の昼休み。
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男子たちがゲームの話をしている。
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直人は本当は、 昨日読んだ図鑑の話をしたかった。
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新しく知った知識。
細かい構造。
不思議だと思ったこと。
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頭の中にはたくさんある。
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でも、 前に話しすぎて空気が止まった記憶が残っている。
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だから言わない。
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代わりに、 みんなの話へ合わせる。
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「へえ、すごいな」
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自分の言葉ではない感じがする。
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でも、 その方が安全だった。
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授業中。
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先生が質問する。
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直人には別の考えが浮かんでいる。
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でも、 “変な答えかもしれない” と思って口を閉じる。
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周りと同じ答えを探す。
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放課後。
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友達が言う。
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「直人って、あんまり自分の話しないよな」
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直人は笑う。
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でも本当は違う。
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話したいことはある。
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ただ、 そのまま出すのが怖い。
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変に思われるかもしれない。
引かれるかもしれない。
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その不安が先に来る。
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家へ帰る。
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部屋に入る。
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机の上には、 好きな本やノートが並んでいる。
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ここでは自由に考えられる。
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細かく調べられる。
好きなことへ集中できる。
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でも学校では違う。
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“普通”へ合わせる方が優先される。
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夜。
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布団の中。
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今日も、 本当に言いたかったことを言えなかった。
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本当の反応を隠した。
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それを繰り返しているうちに、 少しずつ分からなくなる。
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“自分って、どんな人だったっけ”
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まだこの頃の直人は知らない。
この「自己抑制」が、 長く続くと“自分の感覚の喪失”へ繋がることを。
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周囲へ適応するほど、 本音と建前の境界が曖昧になることを。
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ただこの夜は、
誰にも見せていない自分だけを抱えながら、 静かに目を閉じていた。




