第42話 「一番怖いのは、誰も怒っていないこと」
直人にとって、 一番判断が難しい状態があった。
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それは、 誰も怒っていない時だった。
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問題が起きていれば分かりやすい。
怒られれば原因が分かる。
注意されれば修正できる。
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でも、 何も言われない時は違う。
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正解かどうかが分からない。
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ある日の教室。
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授業が終わる。
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先生は普通に教室を出ていく。
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誰も注意されない。
誰も怒られない。
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一見すると平和な時間。
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でも直人の頭の中では違う。
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“さっきの自分は変じゃなかったか”
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それがずっと続く。
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発言しなかったこと。
笑いのタイミング。
姿勢の崩れ方。
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どれも答えがない。
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だから不安が消えない。
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昼休み。
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周りは普通に笑っている。
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でも直人は、 その中に混ざれたか分からない。
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混ざれていたのか、 ただ“そこにいた”だけなのか。
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境界が曖昧になる。
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放課後。
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誰からも何も言われない。
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それが逆に怖い。
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“何も問題がなかったのか” “気づかれていないだけなのか”
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判断材料がない。
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家へ帰る。
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母が言う。
「今日は怒られなかった?」
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直人は少し迷う。
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「……うん」
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でも本当は、 それが安心材料にならない。
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怒られていない=正しい、ではない。
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正しかったかどうかが分からない。
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夜。
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布団の中。
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今日の一日を何度も再生する。
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誰も怒っていない。
誰も注意していない。
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でも安心できない。
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むしろ、 不安が残る。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「フィードバックの欠如」が、 安心ではなく不確実性として残る特性があることを。
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評価が明確でない環境ほど、 自分の行動を過剰に振り返ってしまうことを。
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ただこの夜は、
答えのない静けさの中で、 不安だけがゆっくり広がっていった。




