第41話 「“普通に見せる努力”がバレないように」
直人は、いつの間にか“普通に見せること”に慣れていた。
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でもそれは、 自然な普通ではなかった。
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作られた普通だった。
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朝の教室。
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入る前に一度深呼吸する。
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顔の表情を整える。
声の大きさを想像する。
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“今日も普通に見せる”
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それが始まりだった。
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席に座る。
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周りの会話に合わせて、 少し遅れて笑う。
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でも遅れすぎないように気をつける。
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その微調整をずっと続けている。
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授業中。
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先生が冗談を言う。
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すぐに笑う。
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でも心の中では確認する。
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“今の笑い方、変じゃなかったか”
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笑った後に、 もう一度自分をチェックする。
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そのせいで、 会話に完全には入れない。
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昼休み。
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会話の輪の中にいる。
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でも完全には溶け込めていない気がする。
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だから、 ずっと周りを観察している。
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誰がどのくらい笑っているか。
誰がどのくらい話しているか。
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それを真似する。
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放課後。
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「直人ってさ、普通だよな」
誰かが言う。
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一瞬だけ安心する。
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でも同時に怖くなる。
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“普通に見せられているだけかもしれない”
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その不安が消えない。
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家へ帰る。
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玄関で靴を脱いだ瞬間、 顔の力が抜ける。
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作っていたものが崩れる感覚。
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母が言う。
「学校ではちゃんとしてるの?」
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直人はうなずく。
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“ちゃんと”の中身は分からないまま。
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夜。
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布団の中。
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今日一日を振り返る。
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普通に見せられたかどうか。
変じゃなかったかどうか。
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そればかり考える。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「演じる普通」が、 少しずつ自分自身の感覚を削っていくことを。
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本来の反応と、 作った反応の境界が曖昧になっていくことを。
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ただこの夜は、
“バレていなかっただろうか” という不安だけを抱えながら、 静かに目を閉じていた。




