第40話 「一度つまずくと、全部が怖くなる」
直人は、一度の失敗を“次の失敗の予告”のように感じていた。
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一回ミスをすると、 それがずっと続く気がする。
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ある日の授業。
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発表の時間だった。
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先生が当てる。
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「直人くん、どう思う?」
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一瞬、頭が真っ白になる。
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考えていたはずの答えが、 全部どこかへ飛ぶ。
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沈黙。
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数秒。
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その数秒が、 やけに長く感じる。
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周りの視線。
教室の静けさ。
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ようやく言葉を絞り出す。
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「……分かりません」
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先生は軽くうなずく。
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「じゃあ次」
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それだけで終わる。
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でも直人の中では終わらない。
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“今のはダメだった”
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その記憶が残る。
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昼休み。
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さっきのことを思い出す。
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また当てられたらどうしよう。
また止まったらどうしよう。
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まだ起きていない未来まで怖くなる。
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放課後。
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先生が普通に話しかける。
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「さっきは大丈夫だった?」
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優しい声。
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でも直人は少し身構える。
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“気にされている”
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そう感じてしまう。
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「……はい」
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短く答える。
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それ以上広げられない。
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家へ帰る。
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母が言う。
「発表とか緊張するタイプ?」
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直人は少し考える。
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「……うん」
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でも本当は違う。
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緊張“だけ”ではない。
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止まる。 飛ぶ。 遅れる。
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その仕組みを説明できない。
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夜。
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布団の中。
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今日の発表を何度も思い出す。
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一度止まったことが、 全部を悪くした気がする。
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次も止まる気がする。
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また同じことが起きる気がする。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「一度の失敗を過大に一般化する感覚」が、 不安の学習として積み重なっていくことを。
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そして本当は、 一回の出来事で能力そのものが決まるわけではないことを。
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ただこの夜は、
“次も同じことが起きる” という予感だけが膨らみながら、 静かに眠れない時間が続いていた。




