第39話 「“何もしてないのに疲れる”理由」
直人は、何もしていない時間ほど疲れていた。
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正確には、 “何も起きていないように見える時間”だった。
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朝。
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登校中。
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ただ歩いているだけなのに、 頭の中はずっと動いている。
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今日怒られないか。
変なことを言わないか。
遅れないか。
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まだ何も起きていないのに、 もう疲れている。
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教室。
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席に座るだけで、 周囲の気配を読む。
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誰が機嫌がいいか。
誰が静かか。
誰と誰が話しているか。
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それを全部、 無意識に確認している。
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授業中。
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ノートを取る。
先生の話を聞く。
周りの動きも見る。
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全部同時にやろうとして、 頭が少しずつ重くなる。
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でも止められない。
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止めると、 何か見落とす気がする。
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昼休み。
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会話には入らない時間。
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でもそれは休みではない。
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“入らないでいることを維持する時間”だった。
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周りを見て、 タイミングを逃さないように気を張っている。
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放課後。
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ようやく人が減る。
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でも帰るタイミングを見失う。
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「今帰っていいのか」
その判断を繰り返しているうちに、 遅くなる。
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家へ帰る。
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靴を脱いだ瞬間、 力が抜ける。
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どっと疲れが出る。
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母が言う。
「今日、そんなに大変なことあった?」
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直人は止まる。
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「……特にない」
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本当は違う。
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“ずっと気を張っていた”
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でも説明できない。
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夜。
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布団の中。
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体は動くのに、 頭だけが疲れている。
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何もしていないのに、 なぜこんなに疲れるのか分からない。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「常時の警戒状態」が、 脳にとっては休息ではなく“持続的負荷”になっていることを。
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刺激を減らせない環境の中で、 ずっと周囲を監視し続けていたことを。
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ただこの夜は、
理由の分からない疲れだけを抱えながら、 静かに眠りへ落ちていった。




