第38話 「“冗談”が冗談に聞こえない」
直人は、冗談の扱いが苦手だった。
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言葉としては分かる。
でも、 “どこまで本気なのか”の境界が曖昧になる。
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ある日の教室。
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男子たちがふざけている。
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「直人、今日遅刻したら罰ゲームな」
笑いながら誰かが言う。
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周りも笑う。
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直人も笑おうとする。
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でも頭の中では考えている。
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“本当にやらされるのか?”
“断っていいのか?”
“冗談って言ってるけど、もし本気だったら?”
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その間に、 話は次へ進んでいる。
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「じゃあ決まりな!」
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直人は一瞬遅れてうなずく。
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その“遅れ”が、 また自分を浮かせる。
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放課後。
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「さっきの罰ゲーム覚えてる?」
友達が笑いながら聞く。
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直人は少し緊張する。
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“本当にやるやつ?”
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でも相手は笑っているだけ。
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直人はようやく気づく。
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ただの冗談だった。
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安心する。
でも同時に、 少し疲れる。
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冗談を冗談として受け取るまでに、 一段階遅れてしまう。
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その一瞬が、 いつも自分を不安にさせる。
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家へ帰る。
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母が言う。
「友達と楽しそうじゃない」
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直人は少し考える。
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「……うん」
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楽しいのかどうか、 自分でもよく分からない。
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笑っていたはずなのに、 緊張していた記憶の方が強い。
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夜。
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布団の中。
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今日の冗談を思い出す。
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どこまでが本気だったのか。
自分の反応は正しかったのか。
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頭の中で何度も確認する。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「冗談の理解の遅れ」が、 文字通りの意味だけでなく“文脈・意図の読み取り速度”の問題と関係していることを。
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そしてそのズレは、 悪意ではなく認知の特性によって生まれることを。
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ただこの夜は、
“また一歩遅れた気がする” という感覚だけを抱えながら、 静かに眠りについた。




