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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第35話 「“なんでもない日”が一番疲れる」

直人にとって一番疲れるのは、 大きな出来事があった日ではなかった。



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むしろ、 “何も起きなかった日”だった。



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ある普通の日。



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朝から授業があり、 特別なイベントもなく、 静かに時間が流れていく日。



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それなのに、 帰る頃にはぐったりしている。



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理由がはっきりしない疲れ。



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朝。



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教室に入る。



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いつも通りの挨拶。


いつも通りの席。



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でもその“いつも通り”を維持するだけで、 直人の中ではずっと緊張が続いている。



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授業中。



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先生の話を聞く。



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でも同時に、 周りの反応も見ている。



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ノートも取る。


空気も読む。


考えも止めない。



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全部を同時にやろうとしている。



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そのせいで、 脳がずっと働き続けている。



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昼休み。



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特別なことはない。



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会話に入れない時間があり、 少しだけ遠くから見る時間がある。



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それだけで、 心が少しずつ削られる。



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放課後。



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何も問題は起きていない。



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でも、 “問題が起きなかったように振る舞う” ことにエネルギーを使っている。



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家へ帰る。



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母が言う。


「今日は静かだったね」



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直人はうなずく。



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本当は違う。



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静かだったのではなく、 ずっと内側が忙しかった。



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夜。



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布団に倒れ込む。



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体は動くのに、 頭だけが疲れている。



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“今日は何もなかったはずなのに”



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その違和感が残る。



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何か大きなことがあれば、 まだ理由が分かる。



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でも、 何もない日は説明できない。



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ただ消耗しているだけ。



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まだこの頃の直人は知らない。


この「何も起きない日の疲労」が、 実は最も負荷の高い状態の一つであることを。



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常に周囲へ注意を向け続け、 自動的に調整し続けていることで、 神経が休まっていなかったことを。



---


ただこの夜は、


理由のない疲れだけを抱えながら、 静かに意識が沈んでいった。

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