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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第32話 「“普通にできる人”という謎」

直人には、ずっと解けない謎があった。



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“普通にできる人は、なぜ普通にできるのか”



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それが分からなかった。



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ある日の授業。



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班で話し合いをする時間。



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「じゃあ順番に意見出していこう」


誰かが仕切る。



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みんなが自然にうなずく。



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直人もその輪に入る。



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でも、 何を言うか考えている間に、 次の人が話し始める。



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その繰り返し。



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気づけば、 一度も発言していない。



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“次こそ言おう”



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そう思う。



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でも次も同じ。



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話のスピードが速い。



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一瞬考えると置いていかれる。



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結局、 何も言えないまま終わる。



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休み時間。



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直人は机に座ったまま考える。



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どうしてあの子たちは、 すぐに言葉が出てくるんだろう。



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どうして迷わないんだろう。



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どうして“間”がないんだろう。



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自分は、 考えすぎて止まる。



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でも周りは、 考えながらも動いているように見える。



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その差が分からない。



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家へ帰る。



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母が言う。


「もっと自分から話しなさい」



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直人はうなずく。



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でも、 その“自分から”のやり方が分からない。



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頭の中ではずっと考えている。



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でも、 出てこない。



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言葉になる前に止まる。



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夜。



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布団の中で考える。



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“普通にできる人は、何をしているんだろう”



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考えているのか。 感じているのか。 何も考えていないのか。



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分からない。



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自分だけが、 一度止まらないと動けない。



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みんなは、 止まらずに進んでいるように見える。



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その違いが、 ずっと説明できなかった。



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まだこの頃の直人は知らない。


この「思考のプロセスの違い」が、 単なる努力不足ではないことを。



---


情報処理の順序や速度、 切り替えの癖が影響していることを。



---


ただこの夜は、


“自分だけ何かが足りないのかもしれない”


その不安だけを抱えながら、 静かに目を閉じていた。

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