第31話 「少しずつ、見えなくなる場所」
直人は気づかないうちに、 “見えない場所”に移動していた。
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教室の中で、 物理的な距離は変わっていない。
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でも、 関係の距離は少しずつ離れていく。
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朝。
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「おはようー!」
周りの声はいつも通り明るい。
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直人も返す。
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「おはよう」
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でも、その後の会話には入れない。
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すでに話題が始まっている。
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昨日のテレビ。 ゲーム。 誰かの失敗。
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直人が理解する頃には、 次の話に移っている。
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昼休み。
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グループが自然にできる。
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直人はその外側にいる。
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以前は、 入り方を考えていた。
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今は、 考えることすら疲れている。
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ただ見ている時間が増えた。
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「直人、こっち来る?」
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たまに声がかかる。
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その一言で少し救われる。
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でも、 一歩が重い。
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行っても、 またズレるかもしれない。
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その不安が先に来る。
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結局、 動けないこともある。
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そうすると、 次からは声がかからなくなる。
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自然な流れだった。
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放課後。
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教室はどんどん空になる。
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直人は最後の方まで残ることが増えた。
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忘れ物を確認しているわけではない。
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ただ、 帰るタイミングを逃している。
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周りが全部いなくなってから、 ようやく立ち上がる。
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静かな教室。
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少しだけ落ち着く。
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でも同時に、 少しだけ寂しい。
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帰り道。
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同級生たちの声はもう遠い。
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その代わりに、 自分の足音だけが聞こえる。
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家へ帰る。
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母が言う。
「最近あんまり友達といないね」
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直人は止まる。
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「……うん」
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否定できない。
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でも、 理由も説明できない。
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ただ、 少しずつそうなっていっただけだった。
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夜。
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部屋の中。
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直人は思う。
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“自分はどこにいるんだろう”
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クラスの中にいるのに、 どこにも属していない感じがする。
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声は届く。
でも混ざれない。
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そこにいるのに、 いないような感覚。
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まだこの頃の直人は知らない。
この“静かな距離”が、 本人の意思とは関係なく進んでいくことを。
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一度ずれたタイミングは、 簡単には戻らないことを。
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ただこの夜は、
その理由も分からないまま、 静かに布団へ沈んでいった。




