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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第30話 「自分を説明できない」

直人は、自分のことをうまく説明できなかった。



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苦しい。


疲れる。


怖い。



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そういう感情は確かにある。



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でも、 “なぜそうなるのか” を聞かれると止まってしまう。



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ある日の夕方。



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宿題をしている途中で、 直人の手が止まっていた。



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問題を読んでいる。



---


でも途中で、 別の考えが浮かぶ。



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学校で言われた言葉。


先生の顔。


笑い声。



---


気づけば、 問題の内容が頭から消えている。



---


「まだ終わってないの?」



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母の声。



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直人はビクッとする。



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「……うん」



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母は少し困った顔をする。



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「なんでそんな簡単なことで止まるの?」



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その質問に、 直人は答えられない。



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自分でも分からないから。



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頭の中では、 色んなことが同時に起きている。



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考えすぎている。


気にしすぎている。


集中が切れている。



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でも、それを言葉にできない。



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「ちゃんとやりなさい」



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直人は小さくうなずく。



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“ちゃんとやろうとしてる”



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その言葉だけが頭に浮かぶ。



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でも口には出ない。



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学校でも同じだった。



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先生に聞かれる。



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「なんで忘れたの?」



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本当は、 忘れたくて忘れたわけじゃない。



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途中で気が逸れて、 別のことを考えて、 戻れなくなって――



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そこまで説明しようとして、 頭が止まる。



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結局、


「……ごめんなさい」



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それしか言えない。



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周りから見える直人は、 ただ“ぼんやりしている子”だった。



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でも実際の頭の中は、 ずっと混乱している。



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昼休み。



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男子たちが騒いでいる。



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直人は少し離れた場所から見ていた。



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本当は入りたい。



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でも、 入ったらまた変な反応をするかもしれない。



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その不安を説明できない。



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だから黙る。



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黙っていると、 また「何考えてるか分からない」と言われる。



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その繰り返しだった。



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夜。



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布団へ入る。



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今日も、 言えなかった言葉が残っている。



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“違う”


“そうじゃない”


“ちゃんとやろうとしてる”



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でも、 全部頭の中で止まる。



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もし自分の苦しさを、 ちゃんと説明できたら。



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もし、 “なぜ普通にできないのか” を言葉にできたら。



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少しは違ったのだろうか。



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まだこの頃の直人は知らない。


自分の困りごとを言語化できない子どもが、 実はたくさんいることを。



---


そして、 説明できない苦しさほど、 周囲から“怠け”に見えやすいことを。



---


ただこの夜は、


“自分の中には確かに何かあるのに、 誰にも伝わらない”


その孤独を抱えながら、 静かに眠りへ落ちていった。

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