第28話 「みんなと違う速さで生きていた」
直人は、周りと“テンポ”が違っていた。
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考える速さ。
動き出す速さ。
気持ちの切り替わる速さ。
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全部が少しだけズレている。
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朝。
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「席についてー!」
先生の声。
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みんなが一斉に動く。
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直人も立ち上がる。
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でも、 次に何を持つか考えている間に、 周りはもう座っている。
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「あ、急いで!」
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慌てる。
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でも慌てるほど、 頭の中が散らかる。
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教科書を落とす。
筆箱が開く。
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教室の数人が笑う。
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顔が熱くなる。
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また遅れた。
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またズレた。
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その感覚が積み重なっていく。
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体育の時間。
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「次、並んで!」
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みんなが自然に並ぶ。
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直人は、 どこへ入ればいいか一瞬考える。
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前? 後ろ? 今入っていい?
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その間に列が完成する。
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「直人、遅いってー」
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また笑われる。
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直人は急いで走る。
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でも、 急げば急ぐほど失敗する。
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昼休み。
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会話も同じだった。
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誰かが話す。
笑いが起きる。
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直人は、 “何が面白かったのか” を理解してから笑う。
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だから少し遅れる。
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返事も遅れる。
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話しかけられてから、 頭の中で言葉を整理する時間が必要だった。
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でも周りは待ってくれない。
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会話はどんどん進む。
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「直人って反応遅いよな」
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その言葉がまた刺さる。
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家へ帰る。
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母が言う。
「もっとテキパキ動きなさい」
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直人は小さくうなずく。
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でも、 “どうすれば速くなるのか” が分からない。
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頭の中では、 ずっと考えている。
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確認している。
間違えないようにしている。
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だから、 動き出しが遅れる。
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でも周りから見えるのは、 “遅い人”だけだった。
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夜。
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宿題をしている。
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問題を読む。
考える。
途中で別の考えが浮かぶ。
戻る。
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気づけば、 また時間がかかっている。
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時計を見る。
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「もうこんな時間……」
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周りの子は、 もっと早く終わっているはず。
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直人だけが、 いつも追いつけない。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「処理速度のズレ」が、 脳の特性と深く関係していたことを。
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周囲と違うテンポで情報を受け取り、 違う順番で整理していたことを。
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ただこの時はまだ、
“自分は人より鈍いんだ”
そう思いながら、 静かな部屋で鉛筆を握り続けていた。




