第26話 「“気にしすぎ”で終わる苦しさ」
直人は、色んなことを気にしていた。
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相手の声のトーン。
ちょっとした表情。
言葉の間。
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周りは気づかないような小さな変化が、 直人にはずっと引っかかる。
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ある日の授業中。
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先生がプリントを配っている。
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直人のところへ来た時だけ、 少し無言だった気がした。
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“怒ってる?”
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その考えが頭に浮かぶ。
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でも次の瞬間には、 先生は普通に別の子へ話しかけている。
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“気のせいかもしれない”
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そう思う。
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でも、 一度気になったものは頭から離れない。
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その後の授業も、 先生の表情ばかり気になってしまう。
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ノートを書く手が止まる。
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また置いていかれる。
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昼休み。
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男子たちが笑っている。
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その中で一人が、 ちらっとこちらを見た気がした。
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“今、自分のこと言った?”
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急に不安になる。
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でも実際は、 全然違う話かもしれない。
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分からない。
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分からないまま、 頭の中だけが苦しくなる。
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帰り道。
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直人は今日のことを何度も思い返していた。
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先生の顔。
男子の視線。
自分の返事。
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“変じゃなかったかな”
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考えれば考えるほど不安になる。
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家へ帰る。
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母が聞く。
「なんか元気ないね」
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直人は少し迷ってから言う。
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「……先生、怒ってたかもしれない」
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母は少し不思議そうな顔をする。
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「考えすぎじゃない?」
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その言葉に、 直人は黙る。
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たぶん、母は悪気なく言った。
安心させようとしたのだと思う。
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でも直人には、 少し苦しかった。
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“気にしすぎ”
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自分でもそう思っている。
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でも、 気になるものは気になる。
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止められない。
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頭の中で勝手に考え続けてしまう。
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夜。
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布団へ入る。
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昼間のことをまた思い出す。
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“気にしすぎ”
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もし本当にそうなら、 どうして自分は止められないんだろう。
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周りはもっと簡単に忘れている。
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でも自分だけ、 ずっと引きずってしまう。
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先生の表情。
声の強さ。
相手の沈黙。
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小さな違和感が、 頭の中でどんどん大きくなる。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「過剰に気づいてしまう感覚」が、 神経の敏感さや不安特性と結びついていたことを。
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周囲の刺激を、 必要以上に受け取ってしまっていたことを。
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ただこの夜は、
“もっと気にしない人になりたい”
そう願いながら、 静かに目を閉じていた。




