第25話 「言葉が頭の中で詰まる」
直人は、話したいことがないわけではなかった。
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むしろ頭の中には、 いつも色んな言葉が浮かんでいた。
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でも、 それを“口に出す瞬間”になると止まる。
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言葉が頭の中で絡まる。
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朝の会。
先生が言う。
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「昨日あったこと、発表できる人?」
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何人かが手を挙げる。
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直人も、 昨日見た夕焼けの話を少ししたかった。
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空の色が綺麗だったこと。
雲の形がゆっくり変わっていたこと。
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頭の中には、ちゃんと映像がある。
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でも、 “どう言えばいいのか” がまとまらない。
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考えている間に、 別の子が発表を始める。
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教室が進んでいく。
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また言えなかった。
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国語の授業。
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先生に当てられる。
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「この時の主人公の気持ちは?」
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直人は答えを考える。
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たぶん、 悲しいだけじゃない。
怒ってる気持ちもある。
でも諦めも混ざっている。
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そういう複雑な感覚が浮かぶ。
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でも、 それを短く言葉にできない。
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沈黙が続く。
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教室が静かになる。
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焦る。
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「……かなしい」
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結局、 簡単な言葉しか出てこない。
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「そうだね」
先生は授業を進める。
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でも直人の中には、 言えなかった言葉が大量に残る。
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“違う”
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本当はもっとあった。
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でも出せなかった。
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昼休み。
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男子たちが話している。
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直人も何か言おうとする。
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でも、 どの順番で話せばいいのか分からない。
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頭の中で整理しているうちに、 会話が終わる。
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「直人って何考えてるか分かんねー」
誰かが笑う。
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直人も小さく笑う。
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でも本当は、 考えすぎるくらい考えていた。
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ただ、 出すのが遅いだけだった。
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家へ帰る。
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母が聞く。
「学校どうだった?」
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直人は止まる。
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色々あった。
疲れた。 苦しかった。 変に思われた気がした。
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でも、 全部をどう説明すればいいか分からない。
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「……ふつう」
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またその言葉だけが出る。
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母は「そっか」と笑う。
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直人は少し安心して、 少し苦しくなる。
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本当のことを、 また言えなかった。
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夜。
布団の中。
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今日も、 言えなかった言葉が頭の中に残っている。
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あの時こう言えばよかった。
もっと違う言い方があった。
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そんな反省が、 何度も繰り返される。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「頭では分かっているのに言葉にできない感覚」が、 特性の一部だったことを。
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処理と言語化の速度が、 周囲と少し違っていたことを。
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ただこの時はまだ、
“自分は話すのが下手なんだ”
そう思いながら、 誰にも伝わらない言葉を、 頭の中で抱え続けていた。




