第24話 「“変わってる”が怖くなった」
最初の頃、“変わってる”という言葉は意味がよく分からなかった。
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でも、何度も言われるうちに、 直人はその言葉を怖がるようになっていった。
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ある日の図工の時間。
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「好きな絵を自由に描きましょう」
先生が言う。
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周りの子たちはすぐ描き始める。
花。 動物。 家族。
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直人は紙を見つめたまま止まっていた。
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頭の中には色んなイメージが浮かんでいる。
細かい景色。 影。 光の形。
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でも、 “どれを描けば普通なのか” が分からない。
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変な絵だと思われたくない。
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その気持ちが先に来る。
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結局、 周りと似たような絵を描き始める。
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でも途中で、 細かい部分が気になって止まる。
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窓の線。
影の角度。
色の違い。
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周りはどんどん完成していく。
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直人だけが、 細部で止まり続ける。
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「まだ描いてんの?」
後ろの席の男子が笑う。
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「直人って変に細かいよな」
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また、その言葉。
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“変”
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胸が少し冷える。
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直人は慌てて描くのをやめる。
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もう細かく描かない。
目立たないようにする。
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“普通”に見えるように。
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休み時間。
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男子たちが話している。
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「直人ってさ、ちょっと変わってるよな」
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笑いながらの会話。
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悪意はない。
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でも、 直人にとっては、 自分の居場所が少し削られる言葉だった。
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“変わってる”
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それはつまり、 “みんなと違う”ということ。
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みんなと違うと、 浮く。
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浮くと、 距離ができる。
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その流れを、 直人は少しずつ学び始めていた。
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だから、 自分を隠す。
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好きな話をしない。
気になったことを言わない。
細かくやりすぎない。
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“普通”に見える方を選ぶ。
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でも、そのたびに、 少しずつ息苦しくなる。
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放課後。
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教室で一人、ランドセルを整理している。
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周りでは笑い声が続いている。
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直人は、 その輪へ入りたい気持ちと、 “また変だと思われるかもしれない” という怖さの間で止まっていた。
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家へ帰る。
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自分の部屋。
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誰も見ていない場所。
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直人はノートへ絵を描く。
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細かく。
好きなように。
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時間を忘れるくらい集中する。
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本当は、 こういうことが好きだった。
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でも学校では出せない。
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“変わってる”と思われるから。
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夜。
布団へ入る。
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今日言われた言葉を思い出す。
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「変に細かい」
「ちょっと変わってる」
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その言葉は、 少しずつ直人の中で意味を変えていく。
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最初はただの感想だった。
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でも今は、 “否定”に近く感じる。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「変わってることへの恐怖」が、 やがて“自分を消して生きる癖”へ変わっていくことを。
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本当の興味。
本当の感情。
本当の反応。
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全部を押し込めながら、 “普通の人”を演じ続けるようになることを。
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ただその夜は、
“自分はそんなに変なんだろうか”
その答えの出ない問いを抱えながら、 静かに目を閉じた。




