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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第24話 「“変わってる”が怖くなった」

最初の頃、“変わってる”という言葉は意味がよく分からなかった。



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でも、何度も言われるうちに、 直人はその言葉を怖がるようになっていった。



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ある日の図工の時間。



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「好きな絵を自由に描きましょう」


先生が言う。



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周りの子たちはすぐ描き始める。


花。 動物。 家族。



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直人は紙を見つめたまま止まっていた。



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頭の中には色んなイメージが浮かんでいる。


細かい景色。 影。 光の形。



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でも、 “どれを描けば普通なのか” が分からない。



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変な絵だと思われたくない。



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その気持ちが先に来る。



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結局、 周りと似たような絵を描き始める。



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でも途中で、 細かい部分が気になって止まる。



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窓の線。


影の角度。


色の違い。



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周りはどんどん完成していく。



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直人だけが、 細部で止まり続ける。



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「まだ描いてんの?」


後ろの席の男子が笑う。



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「直人って変に細かいよな」



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また、その言葉。



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“変”



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胸が少し冷える。



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直人は慌てて描くのをやめる。



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もう細かく描かない。


目立たないようにする。



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“普通”に見えるように。



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休み時間。



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男子たちが話している。



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「直人ってさ、ちょっと変わってるよな」



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笑いながらの会話。



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悪意はない。



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でも、 直人にとっては、 自分の居場所が少し削られる言葉だった。



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“変わってる”



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それはつまり、 “みんなと違う”ということ。



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みんなと違うと、 浮く。



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浮くと、 距離ができる。



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その流れを、 直人は少しずつ学び始めていた。



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だから、 自分を隠す。



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好きな話をしない。


気になったことを言わない。


細かくやりすぎない。



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“普通”に見える方を選ぶ。



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でも、そのたびに、 少しずつ息苦しくなる。



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放課後。



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教室で一人、ランドセルを整理している。



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周りでは笑い声が続いている。



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直人は、 その輪へ入りたい気持ちと、 “また変だと思われるかもしれない” という怖さの間で止まっていた。



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家へ帰る。



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自分の部屋。



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誰も見ていない場所。



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直人はノートへ絵を描く。



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細かく。


好きなように。



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時間を忘れるくらい集中する。



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本当は、 こういうことが好きだった。



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でも学校では出せない。



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“変わってる”と思われるから。



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夜。


布団へ入る。



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今日言われた言葉を思い出す。



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「変に細かい」


「ちょっと変わってる」



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その言葉は、 少しずつ直人の中で意味を変えていく。



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最初はただの感想だった。



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でも今は、 “否定”に近く感じる。



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まだこの頃の直人は知らない。


この「変わってることへの恐怖」が、 やがて“自分を消して生きる癖”へ変わっていくことを。



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本当の興味。


本当の感情。


本当の反応。



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全部を押し込めながら、 “普通の人”を演じ続けるようになることを。



---


ただその夜は、


“自分はそんなに変なんだろうか”


その答えの出ない問いを抱えながら、 静かに目を閉じた。

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