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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第23話 「なんでみんな簡単そうなの?」

直人には、不思議だった。



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どうしてみんな、 そんなに自然に生きられるんだろう。



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朝起きて、 学校へ行って、 友達と話して、 授業を受けて、 笑って帰る。



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周りの子たちは、それを当たり前みたいにやっている。



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でも直人にとっては、 全部が“考えながらやること”だった。



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朝。


教室へ入る前から緊張する。



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今日は何を間違えるだろう。


今日は変に思われないだろうか。



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そんなことを考えながら扉を開ける。



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みんなは普通に話している。



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その輪へ入るタイミングを探す。


でも考えているうちに終わる。



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授業中。



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先生の話を聞こうとする。



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でも、途中で別の音が気になる。


窓の外。 誰かの咳。 椅子の音。



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意識がそちらへ飛ぶ。



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戻った時には、 授業が進んでいる。



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慌ててノートを書く。



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でも今度は、 “どこを書けばいいのか” が分からなくなる。



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周りを見る。


みんな普通に進んでいる。



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その姿を見るたびに思う。



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“なんでそんなに簡単そうなの?”



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昼休み。



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男子たちが笑いながら走っていく。



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直人は教室からその姿を見る。



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みんな疲れていないように見える。



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自分だけが、 朝からずっと緊張している。



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“普通”って、 こんなに難しいことだっただろうか。



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放課後。



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先生が連絡事項を話す。



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直人は必死に聞く。


忘れないように。



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でも途中で、 “今の部分を書けてない” ことに気づく。



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焦る。



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書こうとする。



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でもその間に、 次の話が始まる。



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頭の中が追いつかない。



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周りは普通に連絡帳を書いている。



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直人だけが、 置いていかれている感覚。



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帰り道。



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同級生たちが楽しそうに話している。



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「今日マジで笑ったよな」



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その会話を聞きながら、 直人は少し後ろを歩く。



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どうしてみんな、 こんなに軽く笑えるんだろう。



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自分だけが、 一日を生きるだけで疲れている。



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家へ帰る。



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母が言う。


「もっと気楽にしなさい」



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直人は小さくうなずく。



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でも、 “気楽にする方法”が分からない。



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常に考えてしまう。


常に気にしてしまう。



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頭を止められない。



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夜。


布団の中。



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今日もたくさん失敗した気がする。



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話しかけられなかった。


反応が遅れた。


また少しズレた。



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その記憶ばかり浮かぶ。



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でも周りは、 そんなこと気にしていないように見える。



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だから余計に思う。



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“なんでみんな簡単そうなの?”



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もし自分だけが、 見えない何かを必死に背負っているのだとしたら。



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もし自分だけ、 “普通”をするために頑張り続けているのだとしたら。



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その頃の直人には、 まだ答えがなかった。



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ただ、 周りと同じ教室にいるのに、 違う苦しさの中で生きている気がしていた。

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