第22話 「普通のふりを覚え始めた」
直人は、少しずつ学んでいた。
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“本当の自分のままだと、ズレる”
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だから、 周りに合わせる方法を覚え始める。
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笑うタイミング。
返事の仕方。
うなずく速さ。
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全部、“見て覚えた”。
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朝の教室。
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「おはよう!」
元気な声が飛び交う。
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直人は少し遅れて言う。
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「……おはよう」
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周りの声の大きさを真似する。
表情を合わせる。
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自然ではない。
でも、浮かないためには必要だった。
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授業中。
先生が冗談を言う。
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教室が笑う。
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直人は一瞬だけ周囲を見る。
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“ここは笑う場面”
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そう確認してから笑う。
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前より少しうまくなっていた。
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“変だと思われない方法”を覚え始めていた。
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昼休み。
男子たちが話している。
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「昨日の試合見た?」
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本当は興味が薄かった。
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でも、黙っているとまた距離ができる気がした。
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だから、昨日聞いた言葉を思い出して使う。
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「すごかったよな」
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相手は普通に返してくれる。
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その瞬間だけ、少し安心する。
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“これが正解なんだ”
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そう思う。
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でも同時に、 どこか疲れる。
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本当の気持ちではないから。
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好きでもない話題。
自然ではない反応。
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それでも合わせる。
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“普通”に見えるために。
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放課後。
教室で笑いが起きる。
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直人も合わせて笑う。
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でも少しだけ遅れる。
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その遅れを誤魔化すために、 少し大きめに笑う。
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「直人今日テンション高くね?」
誰かが笑う。
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直人も笑う。
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本当は、 “頑張って合わせているだけ” だった。
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家へ帰る。
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玄関で靴を脱ぐ。
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その瞬間、 一気に疲れが押し寄せる。
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学校ではずっと、 “普通のふり”をしていた。
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ちゃんと返事をして。
ちゃんと笑って。
ちゃんと合わせて。
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でも、その全部が少し無理をしていた。
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部屋へ入る。
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ランドセルを置く。
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静かだった。
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誰にも合わせなくていい時間。
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少し安心する。
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でも同時に、 学校での自分を思い出す。
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あれは本当の自分だったのか。
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それとも、 “作った自分”だったのか。
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まだ直人には分からない。
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夜。
布団へ入る。
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今日もちゃんとできただろうか。
変に思われなかっただろうか。
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そのことばかり考えている。
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まだこの頃の直人は知らない。
この「普通のふり」が、 後に“仮面を被って生きる感覚”へ変わっていくことを。
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周囲へ合わせるほど、 本当の自分が分からなくなっていくことを。
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でも今はまだ、 ただ一つだけ願っていた。
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“明日こそ、普通にできていますように”
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その願いを抱えながら、 静かに眠りへ落ちていった。




