表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/100

第19話 「怒られる前に動くクセ」

直人は、少しずつ“先回り”を覚えていった。



---


怒られないように。


変だと思われないように。


遅れないように。



---


そのために、常に周りを見て動くようになった。



---


先生の顔色を見る。


声のトーンを見る。


教室の空気を見る。



---


少しでも機嫌が悪そうなら、緊張する。



---


「次は誰が怒られるんだろう」



---


そんなことを考えながら授業を受けていた。



---


ある日の朝。


教室へ入ると、空気が少しピリついていた。



---


先生が何か探している。


机の上を見ている。



---


「昨日の提出物、出してない人いるよね?」



---


その瞬間、直人の心臓が跳ねる。



---


出したっけ。


出したはず。


でも記憶が曖昧。



---


頭の中が急に不安で埋まる。



---


周りの子どもたちは普通に座っている。



---


直人だけが、急いでランドセルを開ける。



---


プリントを探す。


ノートをめくる。



---


手が焦る。



---


「あった……」



---


ランドセルの奥に、提出物が入ったままだった。



---


直人は急いで前へ持っていく。



---


先生は小さくため息をつく。



---


「出し忘れないように」



---


それだけだった。


怒鳴られたわけじゃない。



---


でも直人は、胸がずっと苦しかった。



---


“またやるところだった”



---


その感覚が残る。



---


それから直人は、 “怒られる前に動く”ことを覚え始めた。



---


先生が何か言いそうになる前に立つ。


忘れ物を確認する。


周りが動いたらすぐ真似する。



---


でも、それは安心ではなかった。



---


常に緊張している状態だった。



---


昼休み。


男子たちが騒いでいる。



---


誰かがふざけて机を叩く。


大きな音。



---


先生が教室へ入ってくる。



---


その瞬間、直人は反射的に姿勢を正す。



---


怒られたくない。



---


でも、周りはまだ笑っている。



---


先生も特に怒らなかった。



---


直人だけが、一人で緊張していた。



---


放課後。


帰りの準備。



---


先生が「忘れ物ないようにね」と言う。



---


直人は何度も確認する。


教科書。 筆箱。 連絡帳。



---


でも確認している途中で、 “今何を確認したっけ”となる。



---


また最初から確認する。



---


周りはもう帰っている。



---


直人だけが残る。



---


焦る。


でも焦るほど、確認が増える。



---


家へ帰る頃には、もう疲れていた。



---


母が言う。


「なんでそんなに疲れてるの?」



---


直人は答えられない。



---


ただ学校へ行ってきただけ。



---


でも本当は、 ずっと神経を張っていた。



---


怒られないように。


変に見られないように。


失敗しないように。



---


その全部を考え続けていた。



---


夜。


布団へ入る。



---


今日一日を思い返す。



---


提出物。 先生の声。 周りの反応。



---


頭の中が静かにならない。



---


“また怒られるかもしれない”



---


その不安が、ずっとどこかにある。



---


まだこの頃の直人は知らない。


この「怒られる前に動くクセ」が、 やがて“大人になっても抜けない過剰警戒”へ変わっていくことを。



---


職場で。


人間関係で。


社会の中で。



---


常に周囲を気にし続ける人生へ繋がっていくことを。



---


ただ今はまだ、 小さな教室の中で、 必死に“普通”を追いかけているだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ