第18話 「一人の方が楽だと思った日」
直人は、少しずつ「一人でいる時間」が増えていった。
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最初は偶然だった。
入れなかっただけ。
話しかけられなかっただけ。
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でも、その積み重ねが続くと、次第に“選択”のように見えてくる。
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ある日の昼休み。
校庭ではサッカーが始まっていた。
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「入る人ー!」
誰かが声を上げる。
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みんなが動く。
走る子。 笑う子。 集まる子。
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直人は一瞬だけ立ち上がる。
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でもすぐに止まる。
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また遅れた気がする。
今から入っていいのか分からない。
誰のチームに入るのか。 何をすればいいのか。
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その間に、人数は埋まっていく。
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「じゃあ始めるぞー!」
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試合が始まってしまう。
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直人は、座り直す。
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胸の奥が少しだけ沈む。
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“また入れなかった”
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でも同時に、少しだけ安心する気持ちもある。
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入ったら失敗するかもしれない。 迷惑をかけるかもしれない。 変に思われるかもしれない。
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それを避けられたことへの安心。
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その二つが同時にある。
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休み時間。
教室に残っているのは数人だけ。
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直人は机に座っている。
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窓の外では楽しそうな声が続いている。
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その音だけを聞いている時間。
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ある意味、それは“楽”だった。
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何を言えばいいか考えなくていい。
タイミングを間違えることもない。
失敗もしない。
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でも、その代わりに、何も起きない。
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放課後。
教室はほとんど空になっている。
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直人はランドセルをゆっくり片付ける。
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誰かが言う。
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「直人って、いつも一人だよな」
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その言葉は、もう慣れてきていた。
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でも慣れたからといって、何も感じないわけではない。
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少しだけ胸が重くなる。
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帰り道。
夕方の空気が冷たい。
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前を歩くグループが笑っている。
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直人は少し距離を置いて歩く。
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入ろうと思えば入れるのかもしれない。
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でも、その“入るための一歩”が重い。
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家へ帰る。
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母が聞く。
「友達と遊ばなかったの?」
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直人は少し止まる。
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「うん」
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それだけ。
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母は少し心配そうな顔をする。
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でも、それ以上は何も言わない。
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夜。
布団の中。
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今日の教室を思い出す。
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サッカーの声。 笑い声。 走る音。
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その全部の外側にいた自分。
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でも、完全に嫌だったわけでもない。
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むしろ少しだけ、 “楽だった”気もする。
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そのことが、余計に分からなくさせる。
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本当は、どっちなんだろう。
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寂しいのか。 楽なのか。
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その答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
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まだ直人は知らない。
この「一人の方が楽かもしれない」という感覚が、 やがて“孤立の固定化”につながっていくことを。
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そして気づいたときには、 戻り方が分からなくなっていることを。
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ただこの夜は、
静かな部屋の中で、 どちらでもない気持ちのまま目を閉じた。




