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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第17話 「話しかけられない理由」

直人は、話しかけることが苦手だった。


正確には、“話しかける前の時間”が長かった。



---


何を言えばいいか考える。 タイミングを考える。 相手の機嫌を見る。 周りの空気を見る。



---


その間に、会話の入口が閉じていく。



---


ある日の休み時間。


教室の前で、数人が話していた。



---


「昨日のゲームさー」


「それな!」


「めっちゃ難しかった」



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楽しそうな声。


直人は少し離れたところで聞いていた。



---


話の内容は分かる。


でも、入る言葉が見つからない。



---


「それ俺もやった」


そう言えばいいのかもしれない。



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でも、それを言うタイミングはいつだろう。


今か。 もう遅いのか。 変じゃないか。



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考えているうちに、会話は進む。



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「あ、それでさ」



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次の話題へ移ってしまう。



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直人はその場に残る。



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“また入れなかった”



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その繰り返しだった。



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ある日、隣の席の子が言った。



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「直人ってさ、あんまり話さないよな」



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悪意はない。


ただの気づき。



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直人は少し考えてから答える。



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「うん」



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それ以上の言葉が出なかった。



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話したくないわけじゃない。



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でも、話し始める方法が分からない。



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どこから入っていいのか分からない。



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それを説明する言葉もない。



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昼休み。


誰かが直人に声をかける。



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「お前も来る?」



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一瞬、心が動く。



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でもすぐに頭が動き始める。



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何をする場面? 自分は何を求められてる? ついていける? 邪魔にならない?



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その間に、相手は少し待つ。



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そして、別の人のところへ行ってしまう。



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直人は小さく息を吐く。



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“やっぱり無理だった”



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そんな気がする。



---


放課後。


教室で笑い声が続いている。



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その中に入りたい気持ちはある。



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でも、入るほど疲れる気がする。



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結局、直人は机に座ったまま帰りの準備をする。



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「直人ってさ、いつも一人でいるよな」


誰かの声。



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聞こえないふりをする。



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でも、ちゃんと聞こえている。



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家へ帰る。



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母が聞く。


「今日は誰と遊んだ?」



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直人は少し止まる。



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「……うん」



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答えになっていない答え。



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母はそれ以上聞かない。



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夜。


布団の中で考える。



---


どうして自分は、話しかけられないんだろう。



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怖いわけじゃない。


嫌いなわけでもない。



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でも、最初の一言が出ない。



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その一言が出ないまま、 全部が終わってしまう。



---


まだ直人は知らない。


この“話しかけられない理由”が、 性格ではなく、


「開始のハードルが高い特性」だったことを。



---


ただこの頃はまだ、


“自分はコミュニケーションが下手なんだ”


そう思いながら、 静かに一日を終えていく。

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