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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第三章「静かに消えていく日常」

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第十一話 「手紙の最後」

直人は、 便箋を持ったまま動けなかった。



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何度も。



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最初の一行を読む。



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『手紙、ありがとう。』



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それだけなのに。



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胸の奥が熱くなる。



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ちゃんと届いた。



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それだけでよかった。



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そう思った。



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けれど。



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まだ続きがある。



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直人はゆっくりと、 次の行を読んだ。



---


『学校のことを書いてくれてありがとう。』



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『図書室のことも。』



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『窓際の席がそのままだって聞いて、少し安心しました。』



---


直人は、 小さく笑った。



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美月らしい。



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そんなことを考える。



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さらに読む。



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『私も、あの席が好きです。』



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『直人くんと話したことを、よく思い出します。』



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そこで。



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直人の指が止まった。



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胸が高鳴る。



---


続きを読みたい。



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でも。



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怖い。



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何が書いてあるのか。



---


期待していいのか。



---


それとも。



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期待してはいけないのか。



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直人は一度、 便箋を机に置いた。



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深呼吸。



---


そして。



---


もう一度手に取った。



---


『本の感想、ありがとう。』



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『私も同じところが好きでした。』



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『でも、少しだけ違うところがあります。』



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直人は首を傾げた。



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どこだろう。



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読み進める。



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『私は、主人公が最後に一人で歩き出したところが好きでした。』



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『誰かに支えてもらったからではなく、自分で歩き出したところ。』



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直人は黙った。



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その文章を、 何度も読む。



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それは。



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今の自分に向けられているような気がした。



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美月は続けていた。



---


『直人くんは、いつも誰かのことを考えてるよね。』



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『迷惑じゃないかな、とか。』



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『嫌われないかな、とか。』



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『私にも、何度もそうしてた。』



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直人は苦笑する。



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図星だった。



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『でもね。』



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『たまには、自分の気持ちを優先していいと思う。』



---


その言葉を読んだ瞬間。



---


直人の目から、 一滴だけ涙が落ちた。



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机の上に落ちる。



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紙が少しだけ濡れる。



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直人は慌てて拭った。



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そして。



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最後の方へ目を向ける。



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そこには。



---


短い文章があった。



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『また学校で話せたらいいね。』



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直人は笑った。



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「うん」



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誰もいない部屋で答える。



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「話そう」



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そして。



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最後の一行。



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そこだけ。



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少し文字が乱れていた。



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直人は目を細める。



---


読む。



---


『だから、もし私がすぐに戻れなくても、待たないでね。』



---


直人の笑顔が消えた。



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「……え?」



---


もう一度読む。



---


間違いではない。



---


『待たないでね。』



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その言葉だけが、 頭の中に残った。



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待たないで。



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どうして。



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昨日まで。



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「また明日」



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と言っていた。



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「感想聞かせて」



---


と言っていた。



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「約束ね」



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と言っていた。



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なのに。



---


どうして。



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「待たないで」



---


なのか。



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直人は便箋を握った。



---


「そんなの……」



---


声が震える。



---


「無理だよ」



---


誰に言うでもなく。



---


呟く。



---


続きを読む。



---


『直人くんには、ちゃんと学校生活を楽しんでほしい。』



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『翔くんと遊んで。』



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『本を読んで。』



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『卒業して。』



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『その先も、普通に生きてほしい。』



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直人の胸が苦しくなる。



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「普通に」



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その言葉。



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昔から嫌いだった。



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みんなと同じになること。



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普通に話す。



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普通に笑う。



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普通に友達を作る。



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普通に恋をする。



---


普通に大人になる。



---


それができなかった自分。



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そんな自分に。



---


美月は。



---


「普通に生きて」



---


と言った。



---


直人は便箋を机に置いた。



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しばらく動けなかった。



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そして。



---


最後の文字を見る。



---


そこには。



---


美月の名前。



---


『藤崎美月』



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その下に。



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小さく。



---


こう書かれていた。



---


『またね。』



---


直人は目を閉じた。



---


またね。



---


その言葉だけを。



---


何度も心の中で繰り返した。



---


翌日。



---


直人は学校へ行った。



---


いつも通り。



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教室。



---


授業。



---


昼休み。



---


図書室。



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窓際の席。



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でも。



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今日は本を開かなかった。



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便箋を鞄から取り出す。



---


そして。



---


もう一度読む。



---


「待たないで」



---


その言葉が、 どうしても理解できない。



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放課後。



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直人は担任のところへ行った。



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「先生」



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「どうした?」



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「藤崎さんのことなんですけど」



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先生の表情が少し変わる。



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「手紙が届きました」



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「そうか」



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「……先生は」



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直人は迷う。



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「美月の病気のこと、知ってるんですか?」



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先生は黙った。



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その沈黙が。



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何より怖かった。



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「どこまで知っている?」



---


先生が聞く。



---


直人は答えられない。



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「入院してることしか」



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「そうか」



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先生は窓の外を見る。



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「藤崎さんは、今かなり長い治療が必要な状態だ」



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「治るんですよね?」



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直人は、 思わず聞いた。



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先生はすぐに答えなかった。



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「治療を続けている」



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それだけだった。



---


治る。



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とは言わなかった。



---


直人は気づいてしまった。



---


何かがおかしい。



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今まで。



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みんなが言葉を濁していた理由。



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美月が、


「待たないで」


と書いた理由。



---


翔が、 何かを知っていた理由。



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全部。



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一本の線で繋がり始める。



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帰宅した直人は、 机の前に座った。



---


そして。



---


美月からの手紙を、 大切にしまった。



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捨てることなんてできない。



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何年経っても。



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きっと。



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この手紙だけは。



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忘れない。



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その夜。



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直人は初めて。



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美月を失う可能性を、 真正面から考えた。



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怖かった。



---


嫌だった。



---


認めたくなかった。



---


でも。



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目を背けることも、 もうできなかった。



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そして。



---


直人は決める。



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待つ。



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待たない。



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そんなことではない。



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今度会えたら。



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ちゃんと伝える。



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自分の気持ちを。



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ありがとう。



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大切だった。



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会えて嬉しかった。



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そして。



---


好きだった。



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たとえ。



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その言葉を伝える時間が、 残されていなかったとしても。



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伝えなかったことだけは。



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後悔したくなかった。



---


窓の外では。



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秋の風が吹いていた。



---


季節は。



---


また一つ進んでいた。



---


そして。



---


美月との時間も。



---


静かに。



---


終わりへ向かっていた。



---


第十二話「言えなかった言葉」へ続く。

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