第十一話 「手紙の最後」
直人は、 便箋を持ったまま動けなかった。
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何度も。
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最初の一行を読む。
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『手紙、ありがとう。』
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それだけなのに。
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胸の奥が熱くなる。
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ちゃんと届いた。
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それだけでよかった。
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そう思った。
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けれど。
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まだ続きがある。
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直人はゆっくりと、 次の行を読んだ。
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『学校のことを書いてくれてありがとう。』
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『図書室のことも。』
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『窓際の席がそのままだって聞いて、少し安心しました。』
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直人は、 小さく笑った。
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美月らしい。
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そんなことを考える。
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さらに読む。
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『私も、あの席が好きです。』
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『直人くんと話したことを、よく思い出します。』
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そこで。
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直人の指が止まった。
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胸が高鳴る。
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続きを読みたい。
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でも。
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怖い。
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何が書いてあるのか。
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期待していいのか。
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それとも。
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期待してはいけないのか。
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直人は一度、 便箋を机に置いた。
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深呼吸。
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そして。
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もう一度手に取った。
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『本の感想、ありがとう。』
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『私も同じところが好きでした。』
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『でも、少しだけ違うところがあります。』
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直人は首を傾げた。
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どこだろう。
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読み進める。
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『私は、主人公が最後に一人で歩き出したところが好きでした。』
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『誰かに支えてもらったからではなく、自分で歩き出したところ。』
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直人は黙った。
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その文章を、 何度も読む。
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それは。
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今の自分に向けられているような気がした。
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美月は続けていた。
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『直人くんは、いつも誰かのことを考えてるよね。』
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『迷惑じゃないかな、とか。』
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『嫌われないかな、とか。』
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『私にも、何度もそうしてた。』
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直人は苦笑する。
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図星だった。
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『でもね。』
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『たまには、自分の気持ちを優先していいと思う。』
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その言葉を読んだ瞬間。
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直人の目から、 一滴だけ涙が落ちた。
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机の上に落ちる。
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紙が少しだけ濡れる。
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直人は慌てて拭った。
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そして。
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最後の方へ目を向ける。
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そこには。
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短い文章があった。
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『また学校で話せたらいいね。』
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直人は笑った。
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「うん」
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誰もいない部屋で答える。
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「話そう」
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そして。
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最後の一行。
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そこだけ。
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少し文字が乱れていた。
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直人は目を細める。
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読む。
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『だから、もし私がすぐに戻れなくても、待たないでね。』
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直人の笑顔が消えた。
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「……え?」
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もう一度読む。
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間違いではない。
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『待たないでね。』
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その言葉だけが、 頭の中に残った。
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待たないで。
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どうして。
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昨日まで。
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「また明日」
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と言っていた。
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「感想聞かせて」
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と言っていた。
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「約束ね」
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と言っていた。
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なのに。
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どうして。
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「待たないで」
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なのか。
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直人は便箋を握った。
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「そんなの……」
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声が震える。
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「無理だよ」
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誰に言うでもなく。
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呟く。
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続きを読む。
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『直人くんには、ちゃんと学校生活を楽しんでほしい。』
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『翔くんと遊んで。』
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『本を読んで。』
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『卒業して。』
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『その先も、普通に生きてほしい。』
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直人の胸が苦しくなる。
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「普通に」
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その言葉。
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昔から嫌いだった。
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みんなと同じになること。
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普通に話す。
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普通に笑う。
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普通に友達を作る。
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普通に恋をする。
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普通に大人になる。
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それができなかった自分。
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そんな自分に。
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美月は。
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「普通に生きて」
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と言った。
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直人は便箋を机に置いた。
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しばらく動けなかった。
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そして。
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最後の文字を見る。
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そこには。
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美月の名前。
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『藤崎美月』
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その下に。
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小さく。
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こう書かれていた。
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『またね。』
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直人は目を閉じた。
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またね。
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その言葉だけを。
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何度も心の中で繰り返した。
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翌日。
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直人は学校へ行った。
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いつも通り。
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教室。
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授業。
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昼休み。
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図書室。
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窓際の席。
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でも。
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今日は本を開かなかった。
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便箋を鞄から取り出す。
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そして。
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もう一度読む。
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「待たないで」
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その言葉が、 どうしても理解できない。
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放課後。
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直人は担任のところへ行った。
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「先生」
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「どうした?」
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「藤崎さんのことなんですけど」
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先生の表情が少し変わる。
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「手紙が届きました」
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「そうか」
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「……先生は」
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直人は迷う。
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「美月の病気のこと、知ってるんですか?」
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先生は黙った。
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その沈黙が。
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何より怖かった。
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「どこまで知っている?」
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先生が聞く。
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直人は答えられない。
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「入院してることしか」
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「そうか」
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先生は窓の外を見る。
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「藤崎さんは、今かなり長い治療が必要な状態だ」
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「治るんですよね?」
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直人は、 思わず聞いた。
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先生はすぐに答えなかった。
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「治療を続けている」
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それだけだった。
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治る。
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とは言わなかった。
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直人は気づいてしまった。
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何かがおかしい。
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今まで。
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みんなが言葉を濁していた理由。
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美月が、
「待たないで」
と書いた理由。
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翔が、 何かを知っていた理由。
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全部。
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一本の線で繋がり始める。
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帰宅した直人は、 机の前に座った。
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そして。
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美月からの手紙を、 大切にしまった。
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捨てることなんてできない。
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何年経っても。
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きっと。
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この手紙だけは。
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忘れない。
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その夜。
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直人は初めて。
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美月を失う可能性を、 真正面から考えた。
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怖かった。
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嫌だった。
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認めたくなかった。
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でも。
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目を背けることも、 もうできなかった。
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そして。
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直人は決める。
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待つ。
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待たない。
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そんなことではない。
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今度会えたら。
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ちゃんと伝える。
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自分の気持ちを。
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ありがとう。
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大切だった。
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会えて嬉しかった。
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そして。
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好きだった。
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たとえ。
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その言葉を伝える時間が、 残されていなかったとしても。
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伝えなかったことだけは。
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後悔したくなかった。
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窓の外では。
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秋の風が吹いていた。
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季節は。
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また一つ進んでいた。
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そして。
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美月との時間も。
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静かに。
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終わりへ向かっていた。
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第十二話「言えなかった言葉」へ続く。




