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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第三章「静かに消えていく日常」

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第七話 「約束した本」

夏休みも半分を過ぎた。



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暑い日が続いていた。



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直人は毎日のように、 美月から借りた本を読んでいた。



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読み終わるたびに思う。



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早く感想を話したい。



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どの場面が好きだったか。



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どんな気持ちになったか。



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伝えたいことが増えていく。



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昔の直人なら。



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本を読んでも、 感想は自分の中だけで終わっていた。



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でも今は違う。



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誰かと共有したいと思う。



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その「誰か」が美月だった。



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八月。



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久しぶりの登校日。



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学校へ向かう。



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校門の近くで、 偶然美月と会った。



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「おはよう」



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その声だけで、 一日が明るくなる。



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「本、読んだ?」



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美月が聞く。



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直人は頷く。



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「読んだ」



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「どうだった?」



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直人は笑う。



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「最後のところが好きだった」



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そこから。



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二人は夢中で話した。



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登場人物の選択。



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物語の結末。



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もし自分ならどうするか。



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気づけば時間が過ぎていた。



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「やっぱり直人くんの感想、面白い」



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美月が言う。



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「そう?」



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「うん」



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「自分では気づかないことを言ってくれるから」



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その言葉が嬉しかった。



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以前。



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自分の考えは変なのだと思っていた。



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みんなと違う。



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考えすぎる。



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そう思っていた。



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でも。



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美月は違った。



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違うことを、 面白いと言ってくれた。



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帰る時間。



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美月が鞄から一冊の本を出した。



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「これ」



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「読んでみて」



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直人は受け取る。



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表紙を見る。



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まだ読んだことのない本だった。



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「ありがとう」



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美月は笑う。



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「また感想聞かせて」



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また。



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その言葉。



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直人は大切に受け取った。



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「約束する」



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自然に言葉が出た。



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美月が少し驚く。



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そして笑う。



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「うん」



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「約束ね」



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その瞬間。



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直人の胸に温かいものが広がった。



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初めてだった。



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誰かと未来の話をすること。



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数日後。



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直人は本を読み始めた。



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しかし。



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途中で手が止まる。



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美月はどんな気持ちで、 この本を選んだのだろう。



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どの場面が好きなのだろう。



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考えるだけで楽しかった。



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そして。



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読み終えたら伝えようと思った。



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今度こそ。



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ちゃんと伝える。



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ありがとう。



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出会えてよかった。



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そして。



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できれば。



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これからも話したい。



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夜。



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ノートを書く。



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『約束した。』



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『次に会ったら感想を話す。』



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『今度こそ、言いたいことを言う。』



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その文字を見て、 少し笑った。



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昔の自分なら。



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約束することすら怖かった。



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失敗すること。



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嫌われること。



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全部怖かった。



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でも今は。



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誰かを信じたいと思えていた。



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まだこの頃の直人は知らない。



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約束とは、


未来を楽しみにするためのものだけではなく、


時には未来を信じ続けるための最後の支えになることを。



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そして。



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この一冊の本が、


二人を繋ぐ最後の証になるかもしれないことを。



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夏の日差しはまだ強かった。



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しかし。



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季節は少しずつ変わり始めていた。



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第八話「最後の夏の日」へ続く。

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