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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第三章「静かに消えていく日常」

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第六話 「短い夏休み」

夏休みが始まった。



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蝉の声が、 朝から街中に響いている。



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高校生にとって、 楽しみな季節。



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友達と遊ぶ。



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部活動に打ち込む。



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思い出を作る。



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そんな時間。



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しかし。



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直人にとって今年の夏休みは、 少し違っていた。



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いつも頭の片隅にある。



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美月のこと。



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体調は大丈夫なのか。



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また学校へ来られるのか。



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考え始めると止まらない。



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そんなある日。



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スマートフォンに通知が届いた。



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翔からだった。



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『図書室、開いてるらしいぞ』



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直人は少し驚いた。



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夏休みでも学校の図書室は、 一部の日だけ開放されていた。



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『行く?』



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すぐ返信する。



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『行く』



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翌日。



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久しぶりに学校へ向かう。



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夏の校舎は静かだった。



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普段の騒がしさがない。



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廊下を歩く。



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教室も。



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階段も。



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全部が違って見えた。



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図書室へ入る。



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窓際。



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そこに美月がいた。



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「来たんだ」



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笑顔。



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直人は少し驚く。



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「体調、大丈夫?」



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気づけば聞いていた。



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美月は少し笑う。



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「心配してくれてた?」



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直人は慌てる。



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「いや……その……」



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言葉に詰まる。



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美月は優しく笑った。



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「ありがとう」



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その一言で、 直人は何も言えなくなった。



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二人は夏休みの図書室で、 本を読む。



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去年の冬と同じ。



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でも。



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どこか違った。



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時間が限られているような気がした。



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「ねえ」



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美月が窓の外を見ながら言う。



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「高校生活って短いね」



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「まだ二年生だよ」



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直人は言う。



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美月は笑う。



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「そうなんだけど」



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「毎日って、思ったより早く過ぎるなって」



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その言葉が、 なぜか胸に残った。



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昼過ぎ。



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美月が一冊の本を手に取る。



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「これ読んだことある?」



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直人は首を振る。



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「じゃあ今度読んで」



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「感想聞きたい」



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その言葉。



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以前と同じ。



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でも。



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直人には少し怖かった。



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「今度」



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その約束が。



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守られる保証なんてないことを、 どこかで感じていた。



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帰り道。



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翔が言う。



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「良かったな」



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「うん」



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「でも」



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翔は少し間を置く。



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「無理するなよ」



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直人は黙る。



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翔は続ける。



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「藤崎さんのこと、大事なんだろ」



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否定できなかった。



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「……うん」



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初めて認めた。



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好きなのかもしれない。



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恋なのか。



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憧れなのか。



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助けてもらった感謝なのか。



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まだ分からない。



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でも。



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大切な人だった。



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夜。



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机の上。



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美月が勧めてくれた本を開く。



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ページをめくる。



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その物語を読みながら思う。



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この夏を。



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この時間を。



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忘れたくない。



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まだこの頃の直人は知らない。



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人は、


失う未来を知らないからこそ、


今という時間を大切にできることを。



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そして。



---


この短い夏休みが、


二人にとって最後の穏やかな時間になる可能性を。



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蝉の声は、 夏の終わりへ向かって鳴き続けていた。



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第七話「約束した本」へ続く。

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