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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第三章「静かに消えていく日常」

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第五話 「再会」

七月。



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梅雨が明けた。



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空は久しぶりに青く晴れていた。



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しかし。



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直人の心は、 ずっと曇ったままだった。



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美月が休み始めてから、 二か月近くが経っていた。



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それでも。



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直人は図書室へ行っていた。



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意味がないと思う日もあった。



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もう会えないかもしれない。



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そんな考えが浮かぶ日もあった。



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それでも。



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あの場所へ行けば、 何かが繋がっている気がした。



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ある日の放課後。



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直人が図書室へ向かうと。



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扉の前に人影があった。



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一瞬。



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足が止まる。



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見間違いかと思った。



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でも。



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違った。



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「……直人くん」



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その声。



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忘れるはずがなかった。



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美月だった。



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少し痩せていた。



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以前より顔色も白い。



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でも。



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笑顔は変わっていなかった。



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「美月……」



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名前が出そうになって、 直人は慌てて止める。



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いつものように。



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「藤崎さん」



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そう呼ぼうとする。



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でも。



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声にならなかった。



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美月が少し笑う。



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「久しぶり」



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直人は頷く。



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「久しぶり」



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それだけ。



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本当は言いたいことが山ほどあった。



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大丈夫だった?



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心配した。



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寂しかった。



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戻ってきてくれて嬉しい。



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全部言いたかった。



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でも。



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言葉が詰まる。



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美月は図書室へ入る。



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いつもの窓際。



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二人で座る。



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懐かしい時間。



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でも。



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以前と同じではなかった。



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「入院してたんだ」



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美月が静かに話し始める。



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「治療してた」



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直人は黙って聞く。



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「学校、来たかったんだけど」



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「体調が安定しなくて」



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「そっか」



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それしか言えない。



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美月は少し困ったように笑う。



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「直人くん」



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「うん?」



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「変わったね」



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意外な言葉だった。



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「え?」



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「前より話すようになった」



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直人は少し笑う。



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「そうかな」



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「うん」



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「最初の頃は、話しかけてもすごく緊張してた」



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図書室で初めて話した日のこと。



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同じ本を読んだ日のこと。



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二人とも覚えていた。



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「でも」



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美月が続ける。



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「今の方が好き」



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その言葉に、 直人の胸が大きく揺れる。



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好き。



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その一言。



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もちろん。



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友達として言っただけかもしれない。



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でも。



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直人には大きかった。



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「ありがとう」



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やっと言えた。



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美月は笑った。



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「何で?」



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「分からないけど」



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「ありがとう」



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それしか言えなかった。



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帰り道。



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夕日が眩しかった。



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直人は思う。



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奇跡だ。



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また会えた。



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また話せた。



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神様が少しだけ時間を戻してくれたようだった。



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しかし。



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家に帰った夜。



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直人は気づく。



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美月の机の上に置かれていた薬。



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病院の袋。



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以前は気づかなかったもの。



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それが頭から離れなかった。



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「本当に大丈夫なのかな」



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不安が消えない。



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それでも。



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今はいい。



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また会えた。



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それだけでいいと思った。



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まだこの頃の直人は知らない。



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再会とは、


失ったものが戻ってきた瞬間ではなく、


残された時間を知る始まりになることもあるということを。



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夏の日差しは強くなっていた。



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そして。



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二人に残された時間は、


静かに動き始めていた。



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第六話「短い夏休み」へ続く。

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