第一話 「会えない昼休み」
五月の終わり。
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朝から雨が降っていた。
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傘に当たる雨音が、 いつもより大きく聞こえる。
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直人は校門をくぐった。
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二年生になってから一か月。
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新しい生活にも慣れてきた。
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クラスは違っても。
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昼休みになれば図書室へ行く。
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それが当たり前になっていた。
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一時間目。
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数学。
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二時間目。
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英語。
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三時間目。
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現代文。
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授業はいつも通り進む。
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そして昼休み。
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直人は弁当を急いで食べ終えた。
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教室を出る。
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廊下を歩く。
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階段を上がる。
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図書室の前に立つ。
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深呼吸を一つ。
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扉を開ける。
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静かな空間。
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紙の匂い。
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ページをめくる音。
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いつもの景色。
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直人は自然と窓際へ目を向けた。
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誰もいない。
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「まだ来てないのかな」
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そう思いながら席へ座る。
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本を開く。
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文字を読む。
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しかし頭に入らない。
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扉が開く音がするたびに顔を上げる。
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違う生徒。
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また違う生徒。
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昼休み終了まであと五分。
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美月は来なかった。
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「今日は忙しいのかな」
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自分に言い聞かせる。
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午後の授業。
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黒板の文字を書き写す。
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先生の声が聞こえる。
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だが。
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頭の中では昼休みのことばかり考えていた。
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放課後。
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帰ろうとした時だった。
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「直人。」
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翔が声をかける。
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「最近、図書室ばっかりだな。」
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「うん。」
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「何か探し物?」
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直人は少し笑う。
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「そんな感じ。」
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本当のことは言えなかった。
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翌日。
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昼休み。
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また図書室へ向かう。
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窓際。
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やはり誰もいない。
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三日目。
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いない。
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四日目。
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やっぱり来ない。
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直人の胸に、 小さな不安が芽生え始める。
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風邪だろうか。
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委員会が忙しいのだろうか。
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そう思おうとする。
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しかし。
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今まで一度も、 こんなに続けて会えなかったことはなかった。
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放課後。
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直人は美月の教室の前を通る。
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何気なく中をのぞく。
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姿はない。
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その時。
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教室から女子生徒が出てきた。
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「あの……」
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直人は勇気を出して声をかける。
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「藤崎さんって……今日は?」
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女子生徒は少し驚いた表情を見せた。
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「ああ、美月?」
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「今日は休みだよ。」
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「体調悪いみたい。」
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その言葉に、 少しだけ安心する。
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「そうなんだ。」
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それ以上は聞けなかった。
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帰り道。
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雨はまだ降っていた。
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傘を打つ雨音だけが響く。
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「早く元気になるといいな。」
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そう願いながら歩く。
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しかし。
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その願いは、
直人が思っていたよりも、
ずっと重い現実へと続いていた。
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雨雲は空を覆ったまま、
静かに街を包み込んでいた。
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第二話「増えていく空席」へ続く。




