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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第三章「静かに消えていく日常」

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第一話 「会えない昼休み」

五月の終わり。



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朝から雨が降っていた。



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傘に当たる雨音が、 いつもより大きく聞こえる。



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直人は校門をくぐった。



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二年生になってから一か月。



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新しい生活にも慣れてきた。



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クラスは違っても。



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昼休みになれば図書室へ行く。



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それが当たり前になっていた。



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一時間目。



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数学。



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二時間目。



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英語。



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三時間目。



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現代文。



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授業はいつも通り進む。



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そして昼休み。



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直人は弁当を急いで食べ終えた。



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教室を出る。



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廊下を歩く。



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階段を上がる。



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図書室の前に立つ。



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深呼吸を一つ。



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扉を開ける。



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静かな空間。



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紙の匂い。



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ページをめくる音。



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いつもの景色。



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直人は自然と窓際へ目を向けた。



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誰もいない。



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「まだ来てないのかな」



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そう思いながら席へ座る。



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本を開く。



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文字を読む。



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しかし頭に入らない。



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扉が開く音がするたびに顔を上げる。



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違う生徒。



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また違う生徒。



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昼休み終了まであと五分。



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美月は来なかった。



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「今日は忙しいのかな」



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自分に言い聞かせる。



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午後の授業。



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黒板の文字を書き写す。



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先生の声が聞こえる。



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だが。



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頭の中では昼休みのことばかり考えていた。



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放課後。



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帰ろうとした時だった。



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「直人。」



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翔が声をかける。



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「最近、図書室ばっかりだな。」



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「うん。」



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「何か探し物?」



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直人は少し笑う。



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「そんな感じ。」



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本当のことは言えなかった。



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翌日。



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昼休み。



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また図書室へ向かう。



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窓際。



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やはり誰もいない。



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三日目。



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いない。



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四日目。



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やっぱり来ない。



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直人の胸に、 小さな不安が芽生え始める。



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風邪だろうか。



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委員会が忙しいのだろうか。



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そう思おうとする。



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しかし。



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今まで一度も、 こんなに続けて会えなかったことはなかった。



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放課後。



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直人は美月の教室の前を通る。



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何気なく中をのぞく。



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姿はない。



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その時。



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教室から女子生徒が出てきた。



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「あの……」



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直人は勇気を出して声をかける。



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「藤崎さんって……今日は?」



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女子生徒は少し驚いた表情を見せた。



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「ああ、美月?」



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「今日は休みだよ。」



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「体調悪いみたい。」



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その言葉に、 少しだけ安心する。



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「そうなんだ。」



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それ以上は聞けなかった。



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帰り道。



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雨はまだ降っていた。



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傘を打つ雨音だけが響く。



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「早く元気になるといいな。」



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そう願いながら歩く。



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しかし。



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その願いは、


直人が思っていたよりも、


ずっと重い現実へと続いていた。



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雨雲は空を覆ったまま、


静かに街を包み込んでいた。



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第二話「増えていく空席」へ続く。

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