藤と椿
あれから藤は、花売所に通っていた。
最初のは平吉に着いてきてもらったが、何度か何度か通う内に場所や注文の仕方を覚え、とうとう一人で来れるようになった。
だが、椿にはまだ会えていない。
椿は本当に人気があるらしく、いつも予約がびっしりと入っていた。
「椿さんをお願いします」
今日も桜色の着物を着た少女にそう言うが、いつもと同じように「申し訳ございません、椿姉さまはもう予約が入っておりまして...」と言われてしまう。
藤はふとため息をつく。
「わかりました、また来ます。」
「あのう、」
「?」
帰ろうと戸に手をかけた時、先ほどの少女に呼び止められる。
「今日は無理ですけど、明日なら空いていますよ。予約入れますか?」
「え、いいんですか?」
「ええ、お客さん熱心だから。よっぽど椿姉さまと遊びたいんですね」
「はぁ...まぁ」少し違うが、と藤は頭を掻いたが、他の仕事そっちのけで通った甲斐があったと名簿に名前を書いて飛び跳ねながら家に帰っていった。
「...甘いものが食べたいねぇ」
椿は少し疲れた様子で空を見上げ、そうつぶやく。
「姉さま、失礼します。」
すっ、と静かに麩を開け、さくらは椿の部屋に入った。
「お疲れ様です。肩揉みましょうか?」
「ありがとう、気が利くねぇさくらは」
椿は少しだけ着物の胸元をはだけさせ、さくらが揉みやすいように肩を出す。
「そういえば、姉さまに言われた通り
いつも来るあの人、明日一番に予約しましたよ。」
「そうかい、ありがとう」
あの人、とは藤のことだった。
椿は三日ほど前から藤が来て自分を指名していることに気がつき、さくらや撫子に詳しく聞いてみると、二週間ほど通っていると言われ興味を持っていたのだ。
そこで、受付の手伝いをしているさくらに藤を明日一番に予約させてやるよう頼んだのだ。
「でも、なぜあの人に予約を?」
「なんとなく、気になってねぇ...。
あの人は私の何かを変えてくれる気がするんだ」
「あの人が...?」
さくらは、藤の外見を思い出してみた。
藤はお世辞にも色男とは言えない風貌をしている。髪は適当に束ねていて、無精髭が生えているし、着物には所々に墨などがついていて、どちらかというと不浪人のように見える。
「ま、女の勘ってやつさねぇ」
「姉さまがいいなら、いいんですけど...」
うーんと唸るさくら。
「わからないよぉ、人は見かけじゃないって言うじゃないか」
そんなさくらの様子をけらけらと楽しそうに笑う椿。
「まぁ、会ってみればわかることさ。
明日が楽しみだねぇ...」




