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姫椿  作者: 秋風聡明
5/7

花売所へ

平吉に誘われるまま、藤は初めて夜の街へ来た。

「すごいな...」

あちこちを物珍しげに見回す藤。

平吉はその姿を見て得意げに「今日は俺のお気に入りの店に連れていってやる」と胸を張る。

平吉に案内されて着いた先は、花売所。

「ここがそうなのか?」

藤が問うと、平吉は彼の肩を組む。

「おうともよ!

ここはすげぇぜ!絶対お前も気に入る!」

「そうかぁ、」


藤は遊郭に来るのは初めてなので、平吉が手続きやらをするのをじっと見ていた。

「...で、今夜は誰にいたしましょう?」

店主のハナにそう問われ、平吉は「あー」と唸る。

「俺はいつもどおり鈴蘭で。

藤、お前は?」

「...んん、僕はこの店で一番強く美しい(ひと)を」

「!」

「またお前は訳わかんねぇことを...」

ハナは一瞬目を見開いた。そういう注文をしてきた客は初めてだったからだ。

だが、すぐに笑顔に戻り「かしこまりました、ご案内いたします。」と言って立ち上がる。

この店で一番、強く美しい女。そう言われて咄嗟にハナの頭に浮かんだのは...


「こちらでございます、どうぞお楽しみください」

「どうも」

ハナに微笑みながら小さく頭を下げ、藤は目の前の麩を開けた。

「いらっしゃい」

そこにいたのは、長煙管を口にくわえた撫子。

「お客さん、お初だねい。アタシは撫子ってんだよい」

「...」

「...?、なにさじっと見て」

撫子は眉間に皺を寄せ、藤を少し睨む。

「あ、ああ、ごめん。

あんまり綺麗だったから」

へら、と笑って頭を掻いてそう言った藤。

「...ありがとう」

撫子は何故かわからないが、「この男は他の客とは違う」と感じた。

「で、何がお望みなんだい?

お遊びかい?それとも酒?

それとも...こっちかねい」

撫子は藤に擦り寄って、頬を両手で包み込む。

「いや、僕は絵を描きに来たんだ」

撫子の手を下ろし、はっきりとそう言った藤に、撫子は小首を傾げた。

「絵?」

「そう、この店で一番強く美しい(ひと)を描きにね」

「!......それは、アタシじゃないねい」

「え?でもおハナさんは君だって...」

「んん、」

撫子は首を横に数回振り、否定する。

「アンタの望んでる女は、アタシじゃなくて椿さ。」

「椿?」

今度は藤が首を傾げる番だった。

聞き覚えのない名に、思わず聞き返す。

「椿はこの店...いや、もしかしたらこの島原一の強く美しい女だよい」

「...島原、一」

「ああ、アタシらの...大切な光だ」

藤は思った。そんな(ひと)を描けたら、自分はどんなに幸せだろうか、と。

そんな藤の考えがわかったのか、撫子はこう続けた。

「と言っても、今日はもう会えないだろうねい。予約が詰まっちまってる」

「そうか...、なら君を描かせてくれないか?」

「いいけど、なんでよい?」

「なんでって...、描きたいからだよ?」

真顔でそう言う藤に、撫子は思わず笑ってしまった。「はは、アンタ面白いねい」

「?」

きょとんとする藤に「気にするな」と言って、撫子は「椿が見たらきっと気に入るだろう」と思った。


「はぁ...」

ハナはふとため息をつき、空を見上げた。

「この店で一番強く、美しい女か...」

あのとき、藤から注文を受けたときに本当に頭に思い浮かんだのは椿だった。

だが何故か、椿を彼に会わせたくは無かった。

なんだが、取り返しのつかないことが起こるような、そんな感覚がハナの胸で渦を巻いていた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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